彼は平常心を保っているつもりだった。言ってしまったと思っても、失敗したという感じではなかった。
その後の言い訳も、誤魔化しもない。
それを見て、また彼の考えていた事がわかってきた。考えていたというか、この先、何をしようかという事が。
「また来ようね。今度は私の誕生日の時でもいいよ」
私は茶目っ気まじりに言った。わかっていて意地悪でもある。
「それはちゃんとした場所を考えてある。予定も何もないだろ? その日は」と彼はぶっきらぼうに言う。
「うん。ちゃっと休みだよ」
私は彼の背後から覗き見る様に顔を出しながら言った。
――きっと今日は、彼にとっては予行練習だったんだ。
練習というか、密かに自分の想いを完了させるというか、そういうか。
ちゃんと意味があって、今日はここに来たんだと。
ちゃんと次は本番があるんだ。私の誕生日に。
もう少し、彼が何をするかがわかってしまっているけど、それはそれで、驚きはなくなっても感動はきっと増してくれている。きっと。
車の助手席に乗りこみがてら、私はファミレスの建物を振り返る。
室内も、外壁を照らすのも。電球色の淡い光は優しく佇んでいるように見えた。
まだずっと、このお店はあり続けてくれるかな?
出来ればもう一人くらい、私達の家族が増えたらな、一度はここを訪れて上げたい。それは細やかだけど、わがままではない願いだと私は思った。