その時だった。おずおずと私達のテーブルに近づいてくる店員さん。
先程の若い女性の方じゃなく、もっと年配の、両親にも近い歳に見える別の女性の店員さんだ。
「あの、すいません……」
その女性店員さんが彼に話しかけてきた。
「はい?」
「先程、創業当時から働いている方はいないかって聞いてらっしゃたのは……」
「ああっ、僕です」
「そうですか。そんな事を聞かれたって相談されてね。それで私がね」
「じゃあ貴方が創業当時からの?」
「いやいやいや、流石にそんなに長くは……」
年配の女性店員さんは笑って答えた。
「いつからここでお働きに?」と彼が聞く。
「いえ、私はこのお店が創業の時にパートで働いてた事があるんですよ。もう、三十五、六年前ですかね」
「えっ! 三十五年!?」と私が驚いていた。
「ええ。このお店自体はそれ位から営業してますよ」
「そんなに長かったんですね。僕が初めて来たのは三十年位前ですね」
「その頃だと私は働いていませんでしたねぇ。独身で働き始めて、結婚を機に一度、辞めていたんで……子供が成長して、もう手が掛からなくなって、また働いていたここに戻ってきたんですよ。七、八年前からですねぇ。家から近いので、ここは」
「そうなんですね。僕の住んでいた生家も、ここから近かったんですよ」
彼は笑顔で答えていた。
――そうなんだ! この辺りって彼が産まれた場所だったんだ。初めて私は知った。
以前から育ったのはこの辺りだとは聞いていても、正確な場所は聞いた事がなかった。
それでなの? 今日は懐かしさも合間っての、このファミレスだったの?
でも、わざわざ自分の誕生日に来る程の事なのだろうか……そう、意味合いのある場所とは到底思えない。
「それじゃあ幼い頃に、よくこのお店に来て下さっていたんですか?」と女性店員さんが訊いていた。
「ええ、家族みんなで。……何か、そう、家族の誕生日が多かったですかね。祝い事があるとここに来ていました、必ず」
「その当時だと、こういったファミレスでも豪勢に思えましたもんね。じゃあ小さい頃は、ここが貴方にとって“ご馳走”だったんですねぇ」
「そうですね。ご馳走でした」
彼と女性店員さんは笑い合っていた。
――そういう訳だったか。
そんな感傷的な想いがあっただなんて。普段はそんなの一切見せない癖に。
急にそういうの見せられると、何だか年上の彼が幼く、可愛らしく見えた。
「それじゃあ今日はどちらかの誕生日で?」と店員さんは私達を見合って言う。