食事の手を止めて彼は頭を掻いていた。食べるに夢中で話半分の私に困った顔。
一呼吸入れて、彼は改めて聞いて来ていた。
「小さい頃にさ、例えば誕生日とかお祝い事とかさ。必ずそう言う時にはここっていう店とか、料理とかなかったと聞いているんだよ」
「ああ、そういうこと。……そうだな~、私んちはやっぱお寿司だったかなぁ」
「お店に食べに行ったの?」
「ううん、大抵は出前だよ。そうそう、いつもお父さんが多めに注文しちゃうんだよね。生ものだっていうのに次の日まで食べなきゃてくらいに」
「そうなんだ」
「そこのお寿司屋さんに食べに行ったのも何回もあるよ……ああ、ちゃんと回ってないお寿司屋さんだからね」
二人で笑い合った。
笑い合いながら、私はふと思った――あれ? 何でそんな事を聞いてきたんだろう。
流れでもなく唐突に。思いついての様子でもなく。聞いておきたい、そんな準備されていたような感じだった。
不思議に思っている私と彼との間。また一つ料理が運ばれてくる。
時間の掛かるグラタンだ。ブツブツと、とろけているチーズが息するように泡を弾けさせているアツアツの。
「お皿が熱くなっているのでお気を付け下さい」と若い女性の店員さんが、私の目の前へと料理を置く。
「そんなに食えるのかよ」と彼が思わず呟いていた。
「大丈夫。ぜんぜんイケる」と即答の私。
店員さんは気を遣ってか、わざわざ二人分の取り皿を用意してくれていた。
その取り皿を店員さんがテーブルへと用意している時だ。急にその女性の店員さんに彼が話しかけていた。
「このお店って古いんですよね?」
何の脈絡も感じない唐突な質問。隣で聞いていた私も、えっと思ってしまった。
「ええ、そうですね。随分と前からは営業しているとは聞いた事はありますが……」
店員さんも少し困り気味に答えていた。何でそんな事を聞いてくるんだろう? 私だってそう思ってしまう。
「創業当時から今だ働いている人なんていませんよね?」と続けざまに訊く彼。
「どうでしょうね……私も何年前から営業しているかは詳しくは知らないので……多分、いないと思いますけど」
「そうですね、そうですよね。すいません。何か変な質問をしてしまって申し訳ないです」
彼は苦笑いしながら店員さんに謝っていた。
店員さんがテーブルから離れてから、私は顔を近づけて彼に伺った。
「どうしたの? 急に?」
「いや、大した事じゃないんだ。別に」
彼は肩を竦めて照れ笑い混じりに言う。不思議には感じても、これ以上、追求しようとなんて思わなかったけど。
食事も済んで、一息ついて。
彼と長く話した。随分と久し振りだったかもと。
もうここでの話題も尽きて、時間を見て。もう、ここを出ようかと内心に二人とも思って、彼が伝票を手に取ろうとしていた。