周囲が高層のマンションや雑貨ビルに囲まれる。その中心となる広場。ぼんやりとした優しげなオレンジ気味の照明を煌々と、平屋建ての洋館風の建物。
――ファミリーレストラン。県内に幾つも点在する系列店の一つだった。
車を降りて、その建物を茫然と私は見つめていた。
「どうかした?」
彼が車を降りながら聞いていた。
「いやっ、別に……」
「そう」
彼は何も不自然には思わず、車の扉を閉め切ると鍵を掛けていた。
――正直にがっかりした。
想像してなかった突然のお誘い。想像していたよりも遠出の場所。想像よりも心なしか上機嫌な彼。
特別な事があって、特別な場所へと。
期待していい流れだった。
でも着いてみれば、変哲もない見慣れた看板を掲げているお店。ここなら近場で充分て思って当然。
化粧も服も無駄だったって言っても怒られない。
「何か食べれないものがあったけ?」
彼が私の様子を見て聞いてきていた。あからさまに気落ちしてた?
「私が食べれないものってないよって知ってるしょ」
焦って気落ちを隠そうとして、思わず声が苛立ちを込めてしまっていた。言って直ぐに後悔する。
「そうだったっけ。結構、ここの店は駄目だっていう人いるからさ」
「そんな人いる?」
「僕の友達は中華系の店は絶対に駄目って人が」
「どうして駄目なの?」
「キノコが食べれないから。中華って多いだろ? キノコ使うの」
「そうか」
大したやり取りじゃないけど、苛立ちも誤魔化せたかな。せっかく乗り気の様子な彼を幻滅させたくない。
もう早く店に入ってしまおう。ただ勘違いをして幻滅している私自身を、これ以上に責めてもしょうがないから。
外観はレンガ仕立ての古風な建物。暗い中ではその位しか分からなかったけど、雰囲気的に昔からあるって感じだった。
店の中に入っても、それを感じた。
電球色の温かみのある色合い。色濃い木目で統一された内装。シャンデリア風の照明。
新しめの綺麗な様子は、そう前でもない時にリフォームされてるせいか。
内心、へぇ~と感心していた。普段よく行くファミレスとは感じが違っている。高級感がある、そう印象づけられた。
でも、店の対応は普段のそれと変わらない。こちらにお名前を。お客様は何名ですか。係の者がご案内致します。
見た目だけで、特別ってのは何にもない。正にファミレス。メニューを見ても他と同じ。代わり栄えのない、どれでも安心して頼めるラインナップ。