僕はまたビールをあおった。
「お兄さんはさ、すまーとふぉん?ってもってる?うちのおじいちゃんが言ってたんだけどさ、あれもってるのっていけないことなんでしょ?」
「それ、ほんとにお爺ちゃんが言ってたの?」
「そうだよ。あとさ、テレビもあんまりよくないって」
「どうして?」
「なんかさ、ぼくがぼくじゃなくなっちゃうからだって。みんなと、いっしょ。いっしょだったら楽しそうだけどさ、あんまりいいことではないんだって」
「ふうん。どういうことだろ?」
「もっといろんな人と話したほうがいいって。たくさん話して、たくさん考えろって」
「お爺ちゃんがそう言ったの?」
いいお爺ちゃんだな、とこっそりと思った。
「そう。だから、いつもこのまるいテーブルにすわってるの。おきゃくさんと話せるでしょ?」
「そうなのか。でも、お爺ちゃん、どうして急にそう言ったの?」
「おじいちゃんがさ、テレビみてたの。ほんとはすきなんだよ、テレビのこと。でさ、おじいちゃん、なかなかあそんでくれなくて、いつも話しかけてもぜんぜんこたえてくれなくて。ぼくがおこったの。ぼくとなんのためにいっしょにいるんだって。そしたら、おじいちゃんきゅうにぼくのほうをむいて、もったいなかったって言ったの」
「もったいなかった、って?」
「わかんない。でも、すまーとふぉんいじっているときも、きゅうにこっちむいてさ、もったいなかったーすまんって。それから、あんまりよくないものだって言いはじめたよ」
仲良いんだな、と独り言のように僕はつぶやいた。
「だって、ぼくがなかよくしないとさ、おじいちゃんもさみしいじゃん?ぼくもおじいちゃんとあそんで楽しいし、おじいちゃんもぼくとあそぶと楽しそうだし。ねえ、こういうのって、うぃんうぃんって言うんでしょ?おじいちゃんが言ってた」
「ほら、ボウズ。揚げまんじゅう食べなよ」
シルバーさんがいつの間にか僕の真横の席まで来ていて、小太郎くんに胡麻団子を勧めた。さっきまで一緒に話していたカップルは、どうやらもう帰ってしまったらしい。
「それ胡麻団子ですよ」と、僕が言うと、「細かいことはいいから。ほら、揚げまんじゅう。なあ、それよりも、俺が出すから一緒に飲もうよ。さみしくてさ」と、半ば強引な誘いを返してきた。
「おじさんは、どうしてひとりでいるの?」
と、小太郎くんが例によって聞く。
「どうしてって、寂しくなりたくないからだよ。何言ってるかわかんないだろ?それが大人なんだ。寂しくなりたくないから、一人で飲んで寂しい思いをして、やっぱり俺はこんな環境いやだ!って思うのさ。そしたら誰かに話しかけて、誰かと一緒にこうやってお酒を飲んで。ほら、寂しくなくなるだろ?わかるか?」