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『もったいないから』西橋京佑

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 すっかりと酔いが抜けて、お腹を誰かに押されているような空腹感を覚えた。こんなときに決まって僕が使うのは、ロータリーからほど近いところ、ビルの地下にひっそりとある人気の中華料理屋さん。常時大混雑というわけではないけど、蒲田一の味だと僕は思っている。少しばかり急な階段は、なんども酔っ払いが転げ落ちたのだろうか、手すりにつかまって歩くことを、四方八方これでもかと張り紙で注意されている。右にも左にも、そして上にも下にもだ。でもきっと、そんなものに意味はないだろう。酔っ払いはそもそも忠告を聞かないし、張り紙なんて目に入らないうちに転げ落ちていく。誰だって、偉くたって、酔っ払ってさえいれば階段の一段か二段は転がり落ちるのだ。

 「いらしゃい、まあせ。おひとりですかあ」
 一人です、と中華系の店員さんに向かって人差し指を立てて知らせる。しばらく店内を見回して、どう見ても周りがたくさん空いているのに、数人が既に座っている大きな円卓を指差した。
 「あちらへ、どぞ。アイセキでいいですかあ」
 「他、空いてるところじゃダメですか?」という僕の質問に、店員は数秒だまってからニコッと笑った。
 「ちょと、ワカンナイ」
 思わぬ答えで、僕もヘラヘラしてしまった。
 「うん、じゃあオッケー」、と親指と人差し指で丸を作って、そのまま指定された円卓に座った。店内の他の席にはほとんど人がいなくて、円卓を囲んでいた5人の男女だけがペチャクチャと喋っている。席に座るや否や、僕の目の前に置いてあった醤油差しを取ろうと、僕のテーブルを挟んで真向かいに座っていた男性が円卓を回して取った。感じ悪いなと思ったが、彼は悪びれた感もなかったから、きっとワザとではないのだろう。
 「ごちゅもん、きまったら、ウカガイます」
 お冷とおしぼりだけ先に持ってきた店員を呼び止め、僕はいつものごとくビールと餃子、それからザーサイを頼んでおいた。
 ほどなくして中ジョッキがサーブされたときに、2つ席をあけて座っていた初老の男性、シルバーさんと名乗った人が、突然「カンパイっ」と僕に向かってグラスを持ち上げた。
 「お酒は、誰かと飲んだ方が楽しいだろ?」
 一人もいいけどさ、とガハハと笑った。僕は何も言わずにグラスを持ち上げて、ニヤッとして乾杯する素振りをした。
 「それでさ」
 と、シルバーさんは僕の方とは反対側の席の、同じように2席空けて座っていた男女のカップルに話しかけた。たぶん、2人の年齢は僕とそんなに変わらなさそうだ。
 「結婚するまではさ、お互い恋してるからすっごく甘い言葉をはくわけ。そうだろ?ドラマよりもドラマみたいにさ、耳元でなんか囁いたりするわけだろ?」
 そう聞いてる2人は、女の人の方が頷く回数が多かった。男性のほうは、少し面倒くさそうに箸を持ったり置いたりしている。

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