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『もったいないから』西橋京佑

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 「もっとましなこと話せねえのか。趣味はなんですかとか、好きなもんはなんですかとか、それがいきなりなんだ、お前。そんな無粋なこと言いやがって」
 「でも、言ってきたのは向こうですよ」
 「同じことだよ。何が体の関係だ、会ったこともねえくせに。馬鹿たれが。そんなアホみたいなことしてないで、もっと周りの人とうまく喋れるようになれ。それで、ちゃんといいと思える相手を自分の目でみつけろ」
 はあ、と若者はバツが悪そうに頭をかいた。なぜか僕が、すごく気まずい気持ちになっていたが、数分ほど無言で過ごしたあと、爺さんと若者は先ほどまで飲んでいた店の店員さんで“誰が良かったか”、というどうしようもないぐらいに無粋な話で盛り上がっていた。
 僕は唖然としたけど、なんだか人らしさを感じてホッとすらしていた。滑稽な二人のやりとりを見て、僕以外にも本物の人間がいたのだと安心したのだ。

 次は、かまた。かまた。
 終点。終わりで始まり。

 僕の外出は、いつも池上線で始まり池上線で終わる。こじんまりしていて、ふとすると友人に出会えそうなこの電車の雰囲気が、なんとなく僕の性に合っているから、僕はどんなに遠回りでも池上線に乗って出かけていた。品川だって、いちいち早起きして五反田経由で行く。川崎は、さすがに京浜東北線に乗るけど、なんとか池上線に乗っていけるのであれば、きっとそうしているはずだ。
 なんとなく、外国みたいなプラットホーム。バンコクも、ミュンヘンもなんならニューヨークのグランドセントラルだって、このホームと少しばかり雰囲気が似ている。乗客みんなが、我先にと改札に向かって進んでいく。かと思えば、改札を通って来た人が、他を寄せ付けぬ勢いで電車に乗ることを目指して進む。電車が始まって終わって、すべてリセットされては新たにスタートしていく場所。僕は立ち止まって、歩いてくる人たちにバレないように、そっと肩や手をぶつけてみた。少しだけ、ほんの一瞬ぶつかった部分に人の温もりを感じて、自分一人が生身の人間かもしれないという孤独感と懐疑心を消していく。心なしか、さっきまでの酔いも少し抜けてきたようだ。
再び歩き出して、ふと思い直す。
やっぱり、ミュンヘンとグランドセントラルは言い過ぎた。そんなにおしゃれなものではない。それはそれでいいかな、と思ってしまう空気がここにはあるけれど。
 ともあれ、僕は蒲田についた。ホーム、スイートホーム。いつもと変わらないバスロータリー。ガヤガヤと謳う酔っ払いたちが、右へ左へ、下へ下へ。蹲った彼らを見るにつけて、不思議と笑みが浮かんでくる。やっぱり僕は、一人じゃないかもしれない。

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