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『藤色の、ラベンダー色の、空の、』園山真央

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「あの外の男の人も、自分の名前はラベンダー・メリーだって」
「そう。あの人もラベンダー・メリー。――と、言うより、あの人がラベンダー・メリーね」
 訝しげに眉を寄せる加奈子に構わず、老女は差し出したぬいぐるみを見つめながら話した。
「あなたはラベンダー・メリーちゃんが大好きだったわね。毎週日曜日の三時になると、そこのステージでメリーちゃんが躍るの。デパートのオリジナルソングに乗せて、小さい子向けのお遊戯。あなたはいつもそれを見たがって、一番前でメリーちゃんと一緒に踊っていたわ」
「あの男の人、本当に踊っていたんですか?」
 老女は笑って、「踊っていたのはメリーちゃんの着ぐるみよ」と答えた。
「着ぐるみ?」
「そう、着ぐるみ」
「ラベンダー・メリーちゃんって、いったい、」
「覚えていない? この子よ」と言って、老女は手に持ったぬいぐるみを振る。「このデパートのマスコット・キャラクター。その名の通り、ラベンダー色の羊さん。十年か、十五年か、随分前に代替わりして、今は黄色い熊がマスコットになってしまったけど」
「あの男の人は、着ぐるみの中の人だったのですか?」
「着ぐるみ? いいえ、違うわ。あの人はラベンダー・メリーちゃんそのものなのよ」
「そのものって?」
「私も初めはびっくりしたわ。こんなにかわいい羊のぬいぐるみが、人間の姿になった途端、こう言ってしまったら悪いけど、ずいぶんくたびれたおじさんなのだもの」と言って、また老女はふふふと笑った。
「――でも、説明されて納得したわ。ついメリーちゃんと呼んでしまうけど、この羊ちゃんは男の子の設定だし、マスコット・キャラクターが作られたのはこのデパートが出来たとき…今から五十年も前なのよね。それなら確かに、羊ちゃんも老いるわ。私だってこんなにお婆ちゃんになったんだもの」
「ぬいぐるみが、人間になったって言うんですか?」
 もしかしたら呆けてしまっているのかもしれない。そう思って加奈子は相手の顔を注意深く眺めた。老女はそんな加奈子の視線も意に介さず、穏やかに微笑み続けている。
「メリーちゃんのぬいぐるみには、願い事を叶えるというジンクスがあるの」
 願いごとを叶えるぬいぐるみ――。山崎さんも同じことを言っていた。
「私の願いはずっと、もう一度あなたに会うことだったから、メリーちゃんは人間になって代わりにあなたを探してくれたのね」
「どうして私に?」
「あなたは、屋上遊園地のメリーちゃんのショーが大好きだったわ。それから、メリーちゃんとお揃いだと言って、私がこのワンピースを着るととても喜んでいた。ショーを見た帰り道、玩具売り場に寄ったのね。そしたらこのぬいぐるみが売っていて、あなたは泣いて欲しがった。だけどその日はもう、屋上でお菓子を買ってあげていたの。おねだりは一日に一個までって、そういう約束だったから、私、頑なにダメだと買ってあげなかった」
 加奈子ははっとした。夢のシーンと同じだった。

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