なんて優しく問われて、そこで初めて自分が目に見えて弱ってたのか、と思うと黙ってることが恥ずかしくなった。
「…顔見たら…体、強張るねん。」
「乙女か…。」
言いながらも馬鹿にする様子はない。
「まぁ、若い身空で、異国の地で金盗られて作品盗られて、挙句心まで盗られてしもたらなぁ…。なかなか忘れられへんかー。」
当時の事が甦りそこに佇む彼の笑顔が痛い。
それだけでもきついのにいつも人を茶化してしか接してこないたもっちゃんが優しい声を出すので、堪えるのに必死やった。
「まぁ…私も阿保やってんけどな。なんか若かったからこそ…なんかな?横暴な勘違いとおぼこ過ぎる意固地さと…あとなんや。」
「なんか…ええわ。その上手くもない面倒臭い言い回し。」
「…なんか、ややこしぃ言わな泣きそうやねんもん。」
あほか…って呟くたもっちゃんの顔が少し赤らんで見えて、おや?と思った。
「いやな…お前、もう一回行ってこいや。」
「は⁉…獅子の群れに弱ったカモシカを放り込むのか?アンタは。」
そこまで細ないやないか、とここ一番驚いた顔をする。
そうして思い出したようにマスターにあれ見して、と何やら催促した。
マスターが骨ばった細い手で取り出してきたものを見て、少し身構える。
「…額縁?」
丁寧に被せられた布をはだくとそこには、真っ直ぐに立たせたものと傍らに転がした2本のホッピーの瓶と辺りに散らしたお洒落なデザインの海外の缶詰。
そんな構図で描かれた未熟な私の絵だった。
「これ、いつの絵よ…。」
「おっちゃんが出ていく前に俺に預けていった。一番好きな絵やからって。」
「え?」
空気が漏れる音だけだった。
「おっちゃんとウチのおばはんは別になんもないぞ。」
何故か嬉しそうな顔で私の反応を見る。
「なんで?」
「オカンな…先ないんや。」
「え?」
「余命言うやっちゃ。」
なんかそんなんさっきも聞いた気がする。
「えー…。」
「ええねん。好きに生きよったからな。子供の俺から見ても。ただ店もあったし、思うように旅行とか行かれへんかったから、行きたいって。」
「それで1年も?」