カーテンの隙間からの陽射しが頬に遠慮なく突き刺さる。
もう立冬やいうのにその陽射しは暑い。
それから逃げるように体をよじって見た腕時計は11時を差していた。
もう、昼やん。そらお天道様も全開やわな。
んん~、と凝り固まった体をほぐすため伸びをする。
そして枕元に立てかけてあるスケッチブックに手を伸ばし1枚1枚ゆっくりと捲ると、あるページで怯えたように手を止める。
風景や果物のモチーフのデッサンの中でそのページは唯一の人物画だった。
褐色の瓶を掲げてこちらに微笑みかける柔らかい表情に指先から体の芯まで冷えていく。
微笑みかけるこの眼差しに熱を感じることなく自分を切り離して眺める事がいつになったらできるだろうか。
その微笑んだ頬のラインを指でなぞる。
眉間から電気が走るような感覚に全身が強張り慌ててスケッチブックを閉じた。
堪らず嗚咽しそうになる前に無理やり体を起こし窓を開け風に当たった。
ここは日本や。あの人のいてへん日本や。
毎朝自分にそう言い聞かせながらもあの人を胸の内で育てているようだ。
「おい、ほうこ!ほうちゃん!」
気安く呼びやがって。と美保子は毒づいた。
「なんや!おっちゃーん。」
少しかすれ気味の声を張り出して答えた。
「ソトソト!ソト貰うで!」
言葉の意味が素直に入ってこなくて一瞬たじろいだ。
そうして床にこぼした油を拭いた新聞紙を床にたたきつけた。
イライラする。
店先に顔を出しておっちゃんの言わんとする事がやっと理解できた。
「なんや、おっちゃん。焼酎やなくてええんか?」
おっちゃんは冷蔵庫からホッピーを一本取り出したところだった。
「あんまな、飲み過ぎたらおばはんがまたやかましいんや。」
おっちゃんは歯が生えてたんであろう所に挟んでいた煙草を指に持ち変え頭の側で人差し指をおったてた。
ホッピーはええんかいな。
そう思いながらおっちゃんの伝票に1を足した。
「ほうちゃん、こっちの鯵フライまだか?」
背中からの声に振り返り2人組のおっさんの顔を見てうんざりする。
「ごめん、おっちゃん。油かえしてん。これ食べて待っといて。」
カウンター下の冷蔵庫から、からし蓮根を出して目の前に音を立てて置いた。