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『ほうちゃん。』野坂佳妓

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ツタンカーメンばりに縁どられた鋭い眼光に相反し穏やかな話しぶりに程よくエンジンがかかったおっちゃんらも次第に落ち着いていき、ほうちゃん肴にほたえとっただけや~、と静かに席に戻った。
そんな様子を奥から眺めとった私は内心騙されとる…と気の毒に思っていた。
立ち飲み屋らしい程よい喧騒が戻った事に満足して厨房に入ってきたオカンは
「アンタはいつになったら店番一つ満足に出来るんや!!」
先程の穏やかさを微塵も残さず声を落としながらもすごい剣幕で迫ってきた。
「おっちゃんが勝手にテンション上がっただけやんか。ウチ知らんわ。」
「アンタまた勝手に酒出したんちゃうやろな⁉そやから調子乗るんやで。」
「ええやないの、ホッピーくらい…。」
原価知らんけど…。
「商売言うんわなぁ、ネギの一本まで細かく管理せんと儲けなんか出ぇへんの!うちとこみたいな酒屋に一本二本毛ぇ生やしただけの飲み屋なんかは特にやねんで⁉アンタもうちょっと自覚持って頂戴よ。」
こんな説教に吐き気はするけど、今に始まったことでもない。
帰国してからは以前にも増して経営だとか店の前途について事あるごとに絡めてくる。
「自覚とかやめてよ。…ただの手伝いやねんから。」
「何言うてんの。もう絵かて描いてへんやないの。」
「描いてへんからってこんな店で生計立てるつもり無いから‼自分の都合だけで話せんといて!。」
「そんな歳でフラフラして。食べさせてもうてこんな店とか偉そうに言うな!」
「どんだけ頑張ったかて、こんな店はこんな店やわ!ホッピーかて焼酎で割るくらいしかでけへんおっちゃんばっかり。なんで私がそんなん相手に商売しなアカンのよ⁉」
「よう言うわ!騙くらされて帰って来た身分でアンタが人をどうこう言える立場か⁉」
遠慮がない関係性というのは奥に隠した心までもが自分のものと錯覚するのか、捨てたい感情さえも奪い取られた気分になる。
しかも今の発言に至っては私の人生にとって世に晒してはいけない禁忌の一幕だ。
術がかかっている。
それに触れたもの触れさせたものは動きが取れなくなる。
店ではさっきの娘の結婚の話がいつの間にか持病自慢大会になっている。
こちらの空間の歪みなどには全く気付いていない。
そんな中、
「ごめ~ん。おばちゃん帰ってるかー?」
少々緊迫感に欠ける甲高い声に術が解ける。
たもっちゃんや。
オカンは、少し言い過ぎたと後悔しているのか、この空気からいち早く抜け出す隙を譲るように声がした方に背を向ける。

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