「助けるわけねーだろ!これでもくらえ!!!うぉおおおお!!」
と叫び、全力ダッシュ走り出し、寝ている 1 人の頭を思いっきり蹴った。
“ポーン”と頭が宙を舞った。
その瞬間、周囲では“シーン”と音が無くなった気がした。
夏の幸せな浜辺で、大学生と思しき若者が、寝ている人間の頭を思いっきり蹴り、頭だけが飛んだのだ。
普通に考えたら大惨事である。映画なら R 指定間違いなし。実際はマネキンの頭なのだが。
シーンとした後、父をはじめ大学生たちも大爆笑。ひどいイタズラだと思いつつ、私も大爆笑。母はあきれて、周囲に頭を下げていた。
このイタズラで、ちょっとした罪悪感を共有したからか、私たち家族と大学生グループは一層仲良くなった。それから夕方まで一緒になって盛り上がり、駅前の居酒屋で一緒に夕食を食べるほど親密な時間を過ごした。
「ここまで来たら、三崎のマグロを食べないと帰れないよな」
とご満悦な父。
確かに美味しい。散々遊んで疲れていたのも大いに美味に貢献していたことだろう。マグロは美味しいし、イタズラも楽しかったし、何より普段接点のない大学生のお兄さんお姉さんと仲良くなって、本当に海に来て良かったと思った。
「お父さん、何飲んでるんですか?」と 1 人の大学生が聞いた。
「ん!?ホッピー。飲んだことない?ホッピーってビールみたいな爽やかな飲み物で焼酎と割って飲むのよ。美味しいよ。若いお前らには関係ないと思うけど、低カロリー、低糖質、プリン体 0 なのよ」
「へぇ、ちょっと頼んでみようかな」
「まずは、ホッピーセットってのを頼むと、ホッピー1 本と焼酎の入ったグラスが出てくるから好みの濃さで割る。ホッピーを全部入れる必要はないんだよ。焼酎が無くなったら“中”って頼めば、焼酎だけ貰えるし、“外”って頼めばホッピーがくるってシステム。ホッピー1 本で“中”3 杯、これが俺のペースだな」
なんだか偉そうに語る父。若者と飲むのが楽しい様子だ。私が 20 歳になってお酒を飲めるようになったら、父は私と一緒に楽しそうに飲むのだろうか。
「ところで、大学は楽しい?」と父が尋ねる。
「まぁ、こうやって遊んでいる時はもちろん楽しいですけど、研究は大変ですね」
「何の研究してるの?」
「簡単に言えばロボットの研究なんですけど、医療、介護の領域で何か役に立ちたいなって子供の頃から思っていて。だから大変だけど楽しいですかね」
「なんか偉いね!受験とかも目的持ってやってた方だ」
「いえ、それは後付けかもしれません。まぁロボットには興味があって、大学進学したんですけど、仲間と出会ったり、親戚が入院したり、そんな中で何となく役に立ちたいと思ったのが医療とか介護で。あ、なんか俺酔っ払ってますかね。真面目な話をしてすみません」