あろうことか、おっちゃんは私に助けを求めてくるのでした。私はどうしていいかわからず、わーっ、と奇声をあげながら両腕を挙げ男二人に突進していきました。ですが、そのまま突っ込んでいくことはできませんでした。近づくにつれ失速し、男たちの前で間抜けにもピタリと止まってしまったのです。
「なんだ、このガキは」
私は何も言えず、硬直していました。足元にうずくまっているおっちゃんは鼻と口から血を流し、肘と膝が擦り剥けていました。
「こいつはな、借りた金を返さない極悪人なんだ。だから、お仕置きをしているだけなんだ。お前はママの所に帰りな」
「もうすぐ、おまわりさんが来ます」
私はイチかバチかの嘘をつきました。
「おまわり? そんなの誰が呼んだんだ?」
男の一人が探るような目で私を見下ろしました。
「僕です」
私はまっすぐに男を睨み返しました。
男は口端を片側だけ上げると、
「おい、ずらかるぞ」
もうひとりにそう言うと、突っ掛けを鳴らしながら去っていきました。
「おっちゃん、大丈夫?」
私はしゃがみこんで手を貸しました。
「これが、大丈夫に見えるか? イテテ」
ようやく立ち上がったおっちゃんでしたが、すぐに植え込みの縁石に座り込んでしまいました。
「坊主。すまんが、今日の将棋はなしや」
おっちゃんはそう言いました。
「それは別にいいけど・・・」
同じように縁石に腰掛けた私は、その先を言おうか躊躇しました。
「けど、なんや?」
「借りたお金は、ちゃんと返さないと」
おっちゃんは笑おうとして傷が痛んだのでしょう、顔を歪めました。
「そやな。借りた金はきっちり返したんや。けど、利子が払えんねん」
おっちゃんは、切れた唇で煙草をくわえました。私は何も言わず野次馬のいなくなった商店街を見ていました。
「ホンマおおきにな。嬉しかったで」
おっちゃんは煙を吐き出しながら、ぼそりと言いました。
翌日、重富酒店に行くと、顔を腫らしたおっちゃんがいつもの席に座っていました。
「おっちゃん、顔、すごいですよ」