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『魔法の黒い水』曽我部敦史

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A
 おっちゃんに出会ったのは、小学4年の夏休みのときでした。
 当時、私は千葉県F市にある、M団地というところに住んでいました。周囲に駅のない不便な場所ではありましたが、多感な時期を過ごした団地の長閑な光景は今でもはっきりと思い出すことができます。
 夏休みに入ると、私は友人のかっくんやたーちゃんと毎日、遊びまくりました。
 ファミコンがブームの時期で、三人の家のどこかでドラクエに興じることもありましたが、やはり、昆虫採集やザリガニ釣り、プール遊び、ロケット花火で遊んだ方が俄然楽しいのでした。
 散々外で遊び回った帰りに、重富酒店に寄り道するのが我々の日課でした。団地の中央にはスーパーがあって、そこを起点として両側に個人商店が並んでいました。パン屋、床屋、本屋、八百屋、肉屋、蕎麦屋、寿司屋にお茶屋。今思えばけっこう豪勢なラインナップです。
 重富酒店はその列の一番端、スーパーから見て一番遠くにありました。そのせいか、どこか寂れた雰囲気が漂っていました。店は年配の夫婦が切り盛りしていましたが、いつの頃からかお酒以外に駄菓子を並べるようになりました。
 それは私たち小学生にとっては喜ばしいことでした。
 夏の時期はファンタをがぶ飲みし、カップかき氷やあんず棒を堪能するのが私たちの定番でした。駄菓子を並べている店には大抵、子供たちが集まるものですが、重富酒店にはなぜか私たち以外の子供をあまり見かけませんでした。
「なんで他の奴ら来ないんだろうな?」
 重富酒店を出たたーちゃんがそうつぶやいたことがありました。
「あの店がカクウチをやっているからだよ」
 物知りのかっくんがそう答えました。
「カクウチって何?」
 私とたーちゃんは同時に同じセリフを口にしました。『カクウチ』とは『角打ち』と書き、店で買った酒を酒屋の一角で飲む行為のことだとかっくんは教えてくれました。
「だからあの店には行くなって、お母さんに言われたことあるよ」
 かっくんは、最後にそう付け加えました。
 私の母親も重富酒店で買い物することはあまりないようでした。子を持つ親たちにとって、角打ちという行為はあまり印象が良くないようでした。
 その日はお盆が近くなってきた頃だと思います。変速付きの自転車で少し遠出をした私たち3人はちょっとした冒険気分の余韻に浸りながら、重富酒店に向かいました。
 いつもより行く時間が遅かったためでしょう、店の奥では見知らぬ男性が店主と向かい合って座っていました。そこには積み重ねたビールケースの上に板を渡しただけの即席のテーブルがあり、それがいわゆる角打ちのスペースのようでした。

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