—美夏へ12月23日、美夏へ12月24日、美夏へ12月25日(クリスマスだ)、美夏へ12月26日、と、年末から亡くなる翌年の夏までの私宛のメモ書きがギッシリ、残された瓶の中に詰まっていた。
—美夏へ 12月23日
高校3年生になってから美夏はとても忙しそうでパパは心配です。進路は決めたのかな、友達はたくさんいるのかな、お母さんとちゃんと将来の話をしているのかな。パパは今日病院で病気が分かりました。お母さんはすごく冷静でした。なんでだろう。そして、美夏にいつ言おう。
—美夏へ 12月24日
今朝帰宅したら美夏の部屋に電気がついているように思いました。勉強してそのまま机で寝てたんじゃないだろうか、体には気をつけないといけないよ。そういえば、お母さんがコーヒーを淹れてくれなくなりました。
—美夏へ 12月25日
お母さんとこれからのことを話しました。美夏にはまだ話せていないけれど、半年〜1年でパパはいなくならなければならないようです。実はまだ実感がないんだ。確かに体重は減っているんだけれどそれ以外はいつも通りなんだよ。クリスマスだけど美夏はお友達と一緒に出掛けるようですね、彼氏だったらちょっと困ります。病気のこともだけど、本当は美夏にもお母さんにも話さなきゃならないことがたくさんあるような気がしています。
なにこれ。思わず小声で言うと、涙が溢れてくるのが分かる。目と目の間が熱くなって鼻の中がヒリついてきて、喉が締め付けられる。
パパなんて呼んでなかったし。お母さんは見るからに落ち込んでたはずだし。朝帰宅したのも浮気相手といたんじゃないかと思うし。コーヒー淹れなくなったのは白湯のほうが体にいいんじゃないかっていう病人への思いやりだし。クリスマスはセンター試験前の追い込み講習だったし。彼氏とか言えるほど恋愛したことないし。
つっこみたいことだらけで、言いたいことだらけで、涙が出て来る。
—美夏へ 4月2日
今日は大学の入学式だったそうですね。パパはもう車の運転ができなくなってしまいました。脳に転移が見つかったそうです。そういえば助手席に美夏を乗せたことはあったでしょうか。せめて成人になったら一緒にお酒くらいは飲みたかったなぁ。ワインやビールももちろんいいけれど、ホッピーなら実はいろんなものと相性が良くて、自分の好きな味にできるから一緒に飲めることなら色々試してみたいね。
—美夏へ 5月22日
大学で友達がたくさんできているようですね。安心しました。美夏はちょっと冷めたところがあるから優しいのに誤解されてしまうんじゃないかと心配でした。パパはこれからたくさんの人がお見舞いに来てくれます。会えない人のほうが大事だったりするんだけれど。どんな形であれ、幸せだったな、と思える関係の人がいるのは良いこと。
—美夏へ 6月10日
パパがいなくなったあとになにかモンダイがでてこないかシンパイです。大人になったらきっと君にも分かる。アイするということ。Iをダイジに。
—美夏へ 7月2日
げんきで。たくさんのアイを。