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『生まれたてのアイ』柿沼雅美

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「いや、美夏ちゃんお酒飲んでる?」
「え、えっと、ちょっとだけだけど」
「そっか。それなら分かるわ、うん」
「え、なにが?」
「ううん、いいの、なんでもない。ほら、美夏ちゃん家じゃ全然飲んでるとこ見たことないからちょっとお酒の匂いがしてびっくりして。大人になったなぁって思っただけよ」
 いつになく早口でしゃべる母親に、そりゃ来年社会人になるんだからさ、と言うと、母親は、そうねそうよね〜、とわざとらしく変な歌を歌うように言う。
「あ、お父さんにただいま言ってないわ」
 リビングの隅の仏壇の前で正座をする。ホッピーの瓶と遺影の前で手を合わせていると、母親がホッピーをもう1本仏壇の前に置いた。
「なに?」
「今日は2本あってもいいかなと思って」
「なんで?」
「なんとなく」
「へんなの。あ、ホッピー買い過ぎてるとか? っていうかさ、誰も飲まないんだからもういいんじゃないホッピー備えなくて。お父さんだってそんなに毎日ホッピーばっかり飲めないでしょ」
「いいから、余計なことしないで」
「余計なことってなにー、ってかホッピーどこにいつも置いてんのー?」
「いいから!」
 いいから、と言って私を寄せ付けないようにしているのも気になって、聞くと、母親は仕方なさそうな諦めの表情をして、クローゼットを指差した。
 そんなところに置いてあったっけ? と思ってクローゼットを開けると、着ていない服が詰められたプラスチックボックスが詰んである奥に紙袋に入ったホッピーの瓶がぎっしり入っていた。
 上半身を折り曲げて手を伸ばすと、また同じ様な袋があって、私は、どっちかだけでいいのになんでこんなに…と呟きながら両方をいっぺんに持ち上げると、袋の重さがだいぶ違った。左手は重すぎてとても持ち上がらないのに右手はそんなに重くなかった。空き瓶?それなら捨てた方がいいと思って右の袋をクローゼットからひきずり出した。
 袋の中からホッピーの瓶をいくつか出すと、空き瓶と思った口には一度開けた蓋が無理矢理ぎゅっと閉ざされていて、瓶の中はホッピーではなく何枚もの紙が入っているのが見えた。
 なにこれキモい怖い、と母親を呼ぼうと息を吸い込んだ瞬間に、何か中を見なきゃいけないような気がして、親指をひっかけて蓋を開けた。親指の先に、蓋のギザギザのあとが残る。
 瓶を逆さまにして小指を突っ込み、中から紙を取り出す。メモ書きのような紙を見ると、美夏へ、と私の名前と、とても大人とは思えない丸い汚い右肩上がりの字で手紙が書かれていた。生前の父親のものだと分かるのに時間はかからなかった。

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