こうなったら、まずはホッピーだけで飲んでみようと変な意気込みが生まれた。
グラスに入れられたホッピーは、金色だった。まるでビールのような香りがする。
私は昔からビールに憧れを抱いていた。しかし、いつからか「大人になったら飲めるもの」から、「大人になっても飲めないもの」に変わっていた。
とりあえずビールと言ってみたかった。私の<大人>はいつまでも来ないまま、大人と呼ばれる人間になった。
きっと、いいホップの香りだとか、もっと適切な言葉があるのかもしれないが、微かに感じた感じた居酒屋の香りは、私にそんな事を思い出させた。
いよいよ金色のホッピーを飲んでみる。
美味しいかどうかは、正直よく分からない。
しかし、私が憧れていた<大人>の味がここにあった。
アルコールも低く、飲んでも体が痒くならなかった。
ずっとずっと、欠けていた<大人>のパーツが、パチッとはまったようにも感じた。
なるほど、みんなコレに焼酎を入れたりするんだな。
みんながビールで乾杯する時、私はホッピーをグラスに入れれば仲間に入れるような気がした。おかしいのかもしれないが、ホッピーは私を笑わないでいてくれる気がする。
空けられたホッピーの瓶を、私は捨てずに窓際に置いていた。
朝から見慣れない物があるぞと、娘は興味津々でラベルを大声で読み始める。
<ホッピー>と言う、飛び跳ねる感じの発音をえらく気に入ったらしく、朝からその名を連呼している。しかも、「プリン体ゼロ」と書かれた説明は、この飲み物にプリンが入ってると解釈したらしく、羨ましがられた。
ホッピーとの距離が以前より縮まったので、私は「Hoopy Hoopy AWARD 」のストーリーを考えてみることにした。
きっと現実にもホッピーの回りには様々な物語があると思う。忘れられない一杯、思い出のあの人、夜風に揺れる赤ちょうちん…。
誰かの心を癒し、誰かと誰かを繋ぎ、また、誰かに希望を与えたかもしれない。
空き瓶を見ながらぼんやりと思いに更けていると、リビングからままごとをする娘の声が聞こえてきた。
並べられた人形達のティーカップには、ホッピーが入っているらしい。クマの縫いぐるみの前に、おもちゃの哺乳瓶が置かれている。「中身は何?」と聞くと、それもホッピーだと言った。飲んでもいないのに、彼女とホッピーの距離は私より近かった。
窓際に置かれた、たった一本のホッピー瓶が、我が家にこんなにも影響をもたらすとは思いもしなかった。夫は昨晩の空き瓶を見るなり「お、ホッピーだな!」と分かりきった事を口に出した。恐らく、ただ「ホッピー」と言いたかっただけだと思う。しかし、おもわず口に出したくなってしまう気持ちは、分からないでもない。
昼食後、娘と近くのスーパーに買い出しに行った。