考えてみれば、<BOOK SHORTS>でも黄色いラベルのホッピーだったので、素直に従えばよかった。
私は初めてホッピーを手に取った。隣の瓶が小さくカランと音をたてた。
(わー!今、私ホッピ持ってるー!)
普段お酒を買わない人間は、これだけでテンションが上がるのだ。
何年も前に成人式を終えたが、まるで初めてお酒デビューする若者のような気分だった。正直緊張した。
しかし、それを周囲に悟られるのは恥ずかしい。私は、何食わぬ顔でスッとカゴにホッピーを入れると、「飲み慣れてる女」を装いその場を去った。
レジに向かいつつ、私はさらなる「こなれ感」を出そうと、卵一パックと牛乳、たぶん冷蔵庫にまだ残っているであろう要らないチーズをカゴに入れ、日常の買い物に自然とホッピーを紛れ込ませて購入することにした。
他のお酒と違い、ホッピーに手を出す自分は、なんだかずいぶんと背伸びしているように思える。
帰りがけ、いつもより大人になった気分だった。十分大人だが、<大人>になった気分なのだ。ビニール袋からチラリと見えるホッピーを見て胸がドキドキした。
初めて我が家にやって来たホッピーは、一先ず冷蔵庫の奥で冷やされた。
夜、鼻唄を歌う夫に、私は高らかにホッピーを見せた。
「えぇ!どうしたの?!」
彼は、慣れない物を手にしている私をケラケラと笑ったので、私も笑った。
「きっと店員さん、『あら!この人イケる口なのね!』って思ったと思うよ。」
聞けば、ホッピーはお酒の好きな人がよく飲むものらしい。お店でドギマギしていた私は、対極にいる自分に本能的に気づいていたのかも知れない。
どういう風に購入したかは黙っていたが、あーだこーだ説明し、さっそく開けてもらうことにした。
「え~っと…焼酎とかあったかな。」
そう言いながら夫はゴソゴソと棚をあさり始めた。一体何を言い出すの、私はただホッピーを飲みたいのよ。
屈めた背中を眺めていると、突然妙なことを言い出した。
「ホッピーって焼酎とかで割るんだよね?」
「え、…どういう事?」
初心者の私が知るはずもなかった。
ホッピーって、みんなコレを飲んでるんじゃないの?
今朝、意味もなく「飲み慣れてる女」を演じた自分が後ろめたい。
「…分かんない。」
少し距離が縮まりそうだったホッピーに、急に背中を向けられたような気分だった。
程なくして、夫は飲みかけの焼酎を見つけ、グラスに入れた。
「あ、ちょっと待って。私、焼酎いらないや。」