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『果てしないロマネスコ』もりまりこ

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「そういや、幻がさここに初めて食レポで来たんだよな。俺さ、あんなにへったくそな食レポ初めてでさ。そこが気に入ったんだよ。嘘のつけないやつだってね」
「初めてここに来た時さ、ドアをどんどん叩く音するからさ、開いてるだろう、忙しいんだよこっちはって思って歩いてったら幻が立ってた。失礼しますだって。あいつ、なんか朗らかでさ、満面笑顔。憎めないっていうか」
「あれ憶えてる? カラスミ事件」
 幻のエピソードを思い出していた。
「そうそう。それはカラスミだって言ってんのに、新しいチーズおいしいですねってほんとうに幸せそうに喰っててさ。カメラマンも笑ってたよ。俺ももうカラスミだろうかティラミスだろうがなんでもいいかって気分になって、意外とこれに合いますねっていってバクバク、ホッピー飲み倒したの」
「ストレートで?」
「ちがう。3冷で」
「例のキンミヤ焼酎?」
「そう、キンミヤ。そしたら急に酔っぱらってさ、このパスタは土曜日のママンの味ですわっていってママンのトマトケチャップの味とか言い出してさ。俺はそれで金とってんだけどって内心思ったけど、腹はたたねぇんだよ」
 さんざん幻のことでふたりで笑った。
 繭はいつ言えばいいのかわからない。もうここを訪れることはしばらくできないことを。それでも阿尾雨さんは知っていたのか確信に触れる。
「ずっと気になってたんだけどさ、幻が死んでからホッピー呑まなくなっただろう。繭ちゃん」
 繭は、また見透かされたと思った。
「うん。なんとなくね」
「でさ、いやならいいんだけど。ここで飲んでいきなよ思いっきり。忘れるも憶えるもどっちにせよ、呑んでからだって」
 そういうとしばらくして阿尾雨さんはトレーの上に載せた3冷セットを、持ってきてくれた。
ジョッキも冷えていた、キンミヤ焼酎も、主役のホッピーも。
 焼酎の上に勢いよくホッピーを注ぐ、泡がたつほど。懐かしい色が滲んでゆく。すべてがまじりあってゆくのがわかった。幻と出逢って、阿尾雨さんと出逢って、幻が死んで、でもこうしていまここにいること。指がひんやりした。凍ってるジョッキの冷たさも憶えておこうと繭は思う。
 阿尾雨さんと乾杯した。
「幻に乾杯だな。そして繭ちゃんのこれからにも。そしてロマネスコにも」
「お店のことね」
「まぁそれもあるけど。繭ちゃんのすきなブロッコリーの弟分のロマネスコだよ。繭ちゃんそんなに見つめてたから知ってるだろう。それってさひとつひとつのかたまりがさ、相似形だろう。どこをとってもそうなんだよ、それってさ、まるで」

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