その先を言おうとした時、やめそうな雰囲気もあったので阿尾雨さんを促す。
「それってなに?」
「幻と繭ちゃんはほんとうにそういう感じ。はてしなくふたりは似てるってことだよ」
食べ残してあったロマネスコを見る。
どこかひとつとそのとなりのひとつを見ると輪郭が、まるでそっくりだった。あざやかすぎる緑色を瞼のうちにそっと閉じ込めた。
阿尾雨さんと最後のお別れをして店を出たら、星が出ていた。
その星がすっと流れ落ちたような気がした。
「流れ星をみたよ」
いつか幻が言っていた言葉が、繭の中に生きていて幻が教えてくれたその時の流星をみているようなまぼろしめいた気持ちになっていた。
「阿尾雨さんがね、ふたりはロマネスコだねって言ってた」
「それとね、知ってる? わたし幻ちゃんの田舎のケーブルテレビ局で働くの。食レポだろうがなんだってするよ、どこかでみててね」
星を見上げる。やっぱりさっきの流れ星は錯覚だったかもしれないけれど、そんな気がしたのだ。
「幻ちゃんみたいにホッピーで酔ったよ。でも、カラスミはさ、チーズなんかじゃないからね、幻ちゃん、ぜんぶ憶えててよねいつか忘れてもいいから」
たったひとつの風景を思い出している時、そこに流れているのはゆるぎない風景への信頼なのだと思う。風景と共に懐かしい人が立ち現われる時も、思い出しているその最中は、絶対的にその人がいまも生きているという確信
のもとに何かを思い出しているんだと、わたしは幻ちゃんに手紙を書いているような気持ちで、いまここにいる幻ちゃんを感じていた。