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『果てしないロマネスコ』もりまりこ

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 窓枠が月桂樹に囲まれたドームの形をしている。ひしめくようなツタの葉。そんな馴染んだ場所の窓と壁をぼんやりみつめながら、何度この景色をみてきたのだろうと、繭は思う。今日いちにちで忘れないように焼き付けることなんてできるのかな?
 腰から下を長く布で巻いたエプロンをしている阿尾雨さんが店のすぐそばのベンチに座って手ぶり身振りでなにかを喋ってる。隣にいるのは銀髪のコバッチュさん。クロアチアから来て、ずいぶん前からパン屋さんをしている。阿尾雨さんはその話が面白くてたまらないらしく、顔をゆがませて笑いを堪えてる。
 そして右隣の米田さんも長いエプロンの膝のあたりで手を重ねながらジェスチャー交じりのコバッチュおじさんを愛情たっぷりの表情で微笑みながら見ている。
 彼らの店は3店舗まっすぐ並んでる。パスタ屋の阿尾雨さんとパン屋のコバッチュさんと定食屋さんの米田さん。すこし離れたところから彼らを見ていると、モノクロ写真の3人のおじさんを見ているみたいな気分になってくる。
 1とか2ではなく3。おばさんではなくて、おじさん。そしてくしゃくしゃの顔いっぱいの笑みを見ていると、世界ではそんなに酷いことは起こってはいないようなそんな錯覚を覚えてしまうくらい。
 これも目に焼き付けるのだ。いつかどこかで瞼をとじてもすぐに思い出せるように。
 コバッチュおじさんのすぐ隣には、何も入っていない白いバスケットが置いてあった。今から買い出しに行くものがあるのかもしれない。プラスチック製で格子の形に編まれている。なにが入っていてもすけすけに中身がまるみえになるようなバッグだった。
 そのとき、ふいにコバッチュおじさんの視線がこっちにやってきて、「まゆさ~ん、やないか。どないしてん?」って声をかけてくれた。それと同時にみんなが繭に視線を注いだ。初めて住んだ場所が大阪のミナミだったので、コバッチュおじさんは今でも大阪チックなイントネーションが抜けない。それもちょっと間の抜けた関西弁ニュアンス。
 阿尾雨さんは「待ってた待ってた」って言って、<定食米ちゃん>の米田さんもひっさしぶりって大きな声で挨拶してくれた。散歩しているアフガンハウンドまでが米田さんを振り返って見上げてる。
「ごぶさたしてます! どうぞみなさん休憩つづけてください」
って繭がいうと「今日はな~んか暇なのよ。でなんだかなぁでこうしてたの」
「いま、今日はって言った? 信也さん言った?」
 信也さんっていうのは、阿尾雨さんの名前。阿尾雨信也さん。繭がずっと、学生の頃から通い続けてるパスタ屋さんのマスターだ。
「言ったさ。言った言った。今日だけじゃなって言いたいんでしょ、米ちゃん。常連さんさえ少なくってさ、でも繭ちゃん来てくれたからいいことありそうだべ」

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