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『ボトルが空になるまで』小野みふ

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 ショルダーバックからデジカメを取り出して、カチャリとシャッターを押す。そこで、ふいに背後から声をかけられた。
「よかったら、写真、撮りましょうか?」
 後ろを振り返ると、レモン色のカーディガンに紺色のタイトスカート姿の華奢な女が立っていた。にこやかな笑顔を浮かべて、カメラを指差してくる。仕事帰りにデートの待ち合わせでもしているのだろうか。化粧をばっちり決めた女は、何だか幸せそうにみえた。
「すいません、じゃあ、お願いします」
 ミキは愛想笑いを返して、夜景をバックに写真を撮ってもらうことにした。
大きく澄んだ瞳に、今の自分はどんな風に映っているのだろう。きっと訳ありの哀れな女だと、同情しているに違いない。
「どうぞ。これでいいかしら?」
「ええ。どうも、ありがとうございます」
 努めて明るい声でお礼を言って、人目を憚らず抱き合うカップルたちから逃れるように、そそくさとランドマークタワーを後にした。

 翌朝早く起きたミキは、軽く化粧をしてホテルの喫茶店に入った。ビュッフェのサンドイッチを食べようとしたところで、どこかで聞き覚えのある声がする。
「昨日はどうも。ご一緒してもいいですか」
はたと顔をあげれば、昨晩写真を撮ってもらった女だ。大きな瞳に、絹のような黒髪が美しい。
「いいですよ。どうぞ」
 どのテーブルも埋まっているらしく、ミキは正面に置いていた鞄を端によけた。
 女は山盛りの皿を両手に抱えて戻ってくると、大きな口を開けて食べ始めた。てっきり彼氏が後から来るのだろうと思っていたのだが、どうやら一人で二皿分食べるつもりらしい。
「観光、ですか」
 遠慮がちに訊ねられて、ミキはこくりと頷いた。そして、「たった一人で?」という言外に含まれた問いかけに答えるように、ぼそりとつけ足した。
「女ひとり旅ってやつ」
「そうですか。私は仕事で静岡から来たんです」
 詳しく聞けば、出張で頻繁に横浜に訪れているらしかった。女はミキが見ていたガイドブックのグルメページに視線を落として、悪戯っぽく目を大きく見開いてみせた。
「そこより、もっと良いところ知っていますよ。ホッピーがあって、料理も美味しいところ」
「あっ、ホッピー。私、昨日初めて飲んだんです。すごくおいしかったな」
「焼酎で割っても、おいしいのよ。よかったら、今夜いっしょに行きませんか?」
 ミキはガイドブックと眼前の大きな瞳を交互に見比べて、後者をとることにした。知らない土地で一人きりでお酒を飲むのはやっぱり気が引けるし、なんとなく馬が合うように思えたので、「それじゃあ、ぜひ」と即答した。
 すると、女は財布から名刺を一枚引き抜いていった。

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