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『幸せの香り』三島潤一

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 僕らは、いつもは四人のチームで仕事をしているが、今日、他の二人は、何ヶ月も前から予定していたバンドのライブに出かけるとのことで、半休をとって昼過ぎに帰っていた。残された僕らは、彼ら分の仕事をカバーし、いつも以上の業務を一緒に終わらせた達成感から、晩ご飯に行くことにした。社長は僕と同じ年の大学から友人なのだが、外国人には褒めてあげることと、ご褒美をあげることを忘れるなと口うるさく言う。そういったことも頭にはあった。ジャスミンも入社してそろそろ一ヶ月になった。ここまで、事務的な会話しかしてなかったような気もしており、一緒にお酒を飲むことで褒めてあげる良い機会になると思った。

 「服部さん、いつか香港に来てみませんか?」
 「いいね」と僕は言って、砂肝を齧った。塩気が多く、ここの砂肝は満足度が高い。「でも、俺、言葉わからないよ」
 「覚えてください」とジャスミンは即答した。
 「そんな簡単に言うけど、今更無理だよ。ジャスミンみたいに頭良くないから」
 「日本人は、みんなその言い訳ですね」
 ジャスミンは、母国語である広東語に加え、いわゆる中国語、そして英語、日本語を喋ることができる。そもそも僕は広東語と中国語の違いすらわからないのだが、複数の言語を使えるというのはどういう感覚なのだろうか。例えば、英語をマスターしたら、「美味しい」という言葉と「delicious」というワードに違いを感じるようになるのだろうか。どちらの言語が先に自分の感情として湧き出てくるのだろうか。一緒にいる人間や、そのときにいる場所や国によって、頭に思い浮かぶ言葉、口から出る単語も変わってくるのだろうか。ひとつの言語しか喋ることができない自分にはまったくわからない世界だ。
 「最初、私beerも飲めません。でも、大人になったらbeer飲めました」とジャスミンが、少し真剣な表情で話しはじめた。
 「そして、cocktailとかwhiskyとかも飲みました。日本のショウチュウは香港でも人気です。でも最初はどれも美味しくない。苦かったり、飲みにくかったり、すぐ気持ち悪くなったりします。それでもですね、みんなが飲んでるから私も飲みたいと思って飲んでいると、だんだん美味しくなったり楽しくなったりします。家に帰ってからもっと美味しいお酒はないかなとか勉強するのも楽しいです。もちろん、教えてもらうのも嬉しいです。みんなと一緒に! って思うとなんでもマスターできます」
 「わかる気がする」
 「日本人ってお酒を飲みながらお喋りするの大好きですよね? 前のバイト先の店長さんとかスタッフさんもみんなそうでした。でも、お酒を飲まないとホントのこと言わない人、多いです。というか、本音を言いたいから、お酒を飲むんですか? それって、すごくもったいない気がします。日本人はお酒という翻訳アプリを使わないと、ホントのことを喋ることができないみたいですよね」
 「どういうこと?」
 「だって日本語って曖昧な表現が多いです。でもお酒が入ると表現がストレートになったり、感情をはっきり伝えはじめます。不思議というより、めんどくさいです。だから、日本人はお酒の代わりに、本音を言い易い新しい“言葉”を覚えちゃえばって思います。別の新しい言葉を覚えて、シンプルにその場でちゃんと言いたいことを言ってほしいです。難しい表現なんていらないです。好きか嫌いかだけ伝われば充分と思います。その方がずっと簡単と思います。わざわざ仕事が終わったあとに、お酒を飲んでから本音を言うよりも」
 その通りだねと言おうと思ったが、何故か言えなかった。

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