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『幸せの香り』三島潤一

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 「なんですか、ソレ?」
 その小さな胸を頑張ってテーブル上に乗せようとするような格好で、彼女が覗き込んでくる。混じりっけなしなしの好奇心の眼差しだ。「なんて飲み物ですか?」
 「ホッピー、だって」と僕は答える。「知ってる?」と訊くが野暮な質問だ。知らないから質問されたわけだし。
 彼女は「はじめて見ました」と言いながら、手際よくインスタグラム用の写真を三枚ほど撮る。「香港にはないです、はじめて見ました」とまた同じようなことを言った。
 「だろうね」と僕は言って、少しほっとする。
 僕らは会社の最寄り駅とは逆方向に約五分歩いたところにある焼き鳥屋さんに来ていた。「日本っぽいものを食べたい」という彼女のリクエストだった。
 彼女の名前は、ジャスミン。といっても、これはいわゆるニックネームで、本当の名前は別にある。でも香港人はお互いを本名で呼び合うことなどほとんどなく、知り合いの本名を知らないケースも多々あるらしい。最初の自己紹介で「私のこと、ジャスミンと呼んでください」と言われた僕らは、同じアジア人に対してジャスミンなんて気取った呼び方をすることに気恥ずかしさもあった。が、すぐに抵抗はなくなった。今となっては、本名であるウォンさんだったかウァンさんだったかと呼ぶ方が違和感があるくらいだ。
 「服部さんは、よく飲むんですか、コレ? ホッピー? でしたっけ?」
 「いや……」と言いながら僕は、右耳の後ろのあたりを掻く。「はじめて飲むよ」と答えて、二人で笑った。
 「ジャスミンの日本の勉強のためと思ってさ。ビールや焼酎や日本酒って香港にもあるんでしょ、だから日本にしかなさそうなお酒を注文してみたんだ。はじめて見るよね?」とまた似たような質問をしてしまう。「ま、とにかく、このままじゃ飲めないから、つくってみよう」
 出かける前に、ホッピーの飲み方をネットで調べておいたが、正直要領を得なかった。ので、今この場で「ホッピー 飲み方」で検索したページを表示させて、ジャスミンと一緒にスマホを見ながら、二人分のホッピーをつくる。冷えたジョッキに焼酎を注ぐ。つぎにホッピーを勢いよく継ぎ足す。泡がしっかり立つように、勢いよく。分量は焼酎が一に対し、ホッピーは五。ジャスミンは、自分がつくった方が絶対美味しいと根拠もなく自慢気に主張し、また写真を撮った。
 「ああ、ジャスミン、混ぜない方がいいんだって。飲んでいるうちに、後から少しずつアルコールが強くなってく。途中で味が変わるってのものホッピーの楽しみ方のひとつ……、って書いてあるよ」
 「へぇ~」
 そう言ってジャスミンは、マドラーをジョッキの横に置き、舐めるようにちびちびと二回ほどジョッキの縁に口をつけ、その後グビっと喉をならした。
 「美味しいですね!」と目を丸くして言うジャスミンに対し「ホントにわかるのかよ」と笑いツッコミしたが、気に入ってもらえたようで僕はとても安心した。

 その後僕らはホッピーを飲みながら、焼き鳥の盛り合わせを次々に頬張った。ナンコツを串から取り外すとき、勢い余って皿の外まで飛び出していったのを見てジャスミンは笑い転げた。とにかく下町っぽい活気のあるお店で、店員さんも注文を運んでくるときに、ジャスミンを見ては「お嬢さん、中国人? ニーハオ!」とからかった。ジャスミンは「香港人です、ネイホウ!」と返事をした。

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