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『10年目のおかわり』村田謙一郎

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「唯一の趣味っていうか」
「オタクやん、どこでもパチパチと」と彼女が優しくツッコむ。
「ふーん、彼女さんは?」
「CAです」
「CA……え、スッチー?」
「スッチーって、古い」と彼女は吹き出した。
 そのパッと見の印象とCAのイメージが、どうにも結びつかない。カメラマニアとスッチー、意外な取り合わせの二人が、どうやって今に至ったのか興味はあったが、それを聞くのは野暮というものだ。
「おじさんはこっちで……あ、ごめんなさい」
「いいよ、おっさんで間違いないし」
 彼女はぺろっと舌を出した。
「俺も大阪から今日……出張で来たんよ」
出張……いや、私にとっても、これはある種の卒業旅行と言えるのもしれない。
「あれ、お客さんは大阪から? それはご苦労様」
 女将が私を見た。その髪は、記憶の中のものよりもかなり白いものが目立つ。
私を見る女将の表情に変化はなかった。やはり覚えていないようだ。それはそうだろう。10年前、まだ20代と年だけは若かった私は、表情から虚勢を見抜かれないように、そして隙間から周囲をうかがい見るために、髪を伸ばし、背を丸め、老人のように生きていた。短髪で相手の目を見て話している私を見て、あの時の男と結びつくわけもない。

「あの……それでホッピーは」
彼の言葉に我に返った。
「ああ、ごめん。ホッピーはこうやって焼酎で割って、自分の好きな味にして飲むんや」
私はホッピーのビンを傾け、ジョッキに勢いよく注いだ。炭酸のシュワっという音が広がる。
「焼酎1にホッピー5でちょうどアルコール分5%、ビールと同じぐらいになるけど、そこにこだわる必要はない。一番美味しいと思える濃さで楽しんんだらええんや」
二人はそれぞれ、ジョッキにホッピーを注ぎ、恐る恐る口をつけた。
「あ……うまい」と彼が彼女を見た。
「うん、飲みやすい。ビールに似てるけど、苦味がなくて、ほんのり甘い感じ」
「そうそう、わかってるなあ」私は嬉しくなり、勢いづいて話す。
「ホッピーはな、戦後まもなく発売されたんやけど、元々は当時高かったビールの代用品やったんや」
 記憶の扉がまた開き、あの人の、げんさんの声が自分の声に重なった……

「ホッピーが生まれたのは戦後の1948年。ワシはその時5歳。もうお母ちゃんのおっぱいは卒業してたけど、ちいとホッピー飲むには早い年だったのー」

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