あの時と変わらない茶色の瓶がありました。
あの時は、お父さんに抱っこをしてもらわないと届きませんでしたが、背が伸びたから、つま先で立って、瓶を取ることができました。
瓶を手にして、レジに向かうとおばさんが座っていました。
しかし、疲れているのか、グースカいびきをかいて寝ています。
「こんにちは」
たっくんが声を出しても、おばさんは起きません。
おばさんの寝ている顔は、あまりにも気持ち良さそうです。
無理矢理に起こすのは悪い気がしました。
だから、たっくんは、お金の入った飴の缶をレジの所に置いて店を出ました。
再び信号を待って、青になったら、右見て、左見て、また右見てをしてから、横断歩道を渡りました。
チャウチャウ犬は、まだのんびり寝ていてラッキーでした。
こっそりと家に戻ると、お母さんはベランダで布団を叩いていました。
再び、冷蔵庫の前に椅子を引きずってきて、その上に登って冷蔵庫を開けました。
そして、買って来たホッピーを冷蔵庫の中に入れました。
お父さんもお母さんも驚くだろうなと思うとたっくんは嬉しくなりました。
「ただいま」
「お帰り」
お父さんが家に帰って来ました。
もう夜が遅いので、たっくんはこっそりとその様子を見ています。
お父さんがお風呂から出てきて、冷蔵庫の前に立ちました。
「あ、そうだ。昨日、全部飲んだんだった。買い忘れた」
「え、一本あったよ?」
お母さんが晩御飯のカレーを温めながら答えました。
「え? 昨日、全部飲んだんだけどな」
そう言いながら、お父さんは冷蔵庫を開けました。
「本当だ」
しっかりと冷えたホッピーをお父さんは手にしました。
「疲れてんじゃない?」
お母さんがテーブルに、冷たい焼酎を入れた冷えたジョッキとカレーを置いて、椅子に座り、お父さんも座りました。
「やったー! カレー」
「お誕生日だもんね」
「ありがとう。お母さんも飲もうよ」
「うん」
お母さんは、自分のジョッキを冷蔵庫から取って焼酎を入れました。
お父さんがホッピーを開けて、二人分を作りました。
「お誕生日おめでとう」
「ありがとう」
二人はジョッキを合わせて、同時にホッピーを飲みました。
「あー、美味い」
「美味しいね」