「昨日、本当に無くなったんだけどな…」
「そうなの? もしかしたら、たっくんが買って来てくれてたりしてね」
お父さんはホッピーの瓶を手にとって、しげしげと眺めました。
瓶がとても冷えていたので、水滴が浮かんでいます。
そして、小さな手が瓶を握った跡も浮かんでいました。でも、お父さんはそれには気がつきません。
「だとしたら、嬉しいな」
お父さんはホッピーの入ったグラスを手にして、天井へと顔を向けました。
「たっくん、ありがとう」
お母さんも同じようにしました。
「たっくん、ありがとう」
二人は再び乾杯をしました。
たっくんは、嬉しくて嬉しくて仕方がありませんでした。
「たっくん、良かったね」
たっくんは後ろから声をかけられたので、振り向きました。
羽を上下に動かした天使が微笑んでいます。
「帰ろうか。寂しいだろうけど」
「うん」
たっくんは再び、お父さんとお母さんの顔を見ました。
二人は、たっくんがいた時に撮った写真をホッピー片手に眺めています。
「お父さんだけじゃなくて、お母さんも喜んでくれたね」
天使が言いました。
「うん」
たっくんが頷き、天使がたっくんの肩に手をかけました。
二人は煙のように消えて行きました。
ホッピーの瓶の表面に浮かんでいた水滴と小さな手の跡も消えました。