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『先輩からの贈りもの』さとうつとむ

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「――俺、明日から病院に入院することになった」
 なんの病気だろう。俺はドキドキしながら、杉本さんの次の言葉を待った。
「5月頃から体調が悪かったので、先日、精密検査をした。その結果、肺ガンと診断されたんだ」
「え?」
 ――思わず言葉を失う。
 いつも元気な杉本さんがガンだなんて、まったく想像をしていなかった。動揺を隠せず、俺の手がガタガタと震えだす。
「それも、だいぶ進行しているらしい……。入院後、手術を受ける予定だ」
 寂しそうにうつむく。こんな表情の杉本さんを見たのは初めてだ。
「いつ復帰できるかわからない。だから、おまえに頼まれた仲人の件は受けられそうにない。悪いが他の人にあたってくれ」
 やはり、そのことか。
 入院と手術を目前にして大きな不安があるはずなのに、俺からの頼みを気にしてくれるところは杉本さんらしい。
「今日は、それを言うために、俺を澤田に呼んだんですか?」
「そういうことだ」
 俺には、年齢がふたつ年上の婚約者がいる。名前を樫村美奈子といい、本社の営業部で働いている。俺たちはいわゆる社内恋愛だ。彼女との結婚を決める前に、真っ先に杉本さんに相談した。後押しもしてくれた。結婚式の仲人をお願いすると、杉本さんは喜んで承諾してくれた。
「俺たちの仲人は、杉本さんだけです」
 俺は、自分の気持ちを正直に伝えた。「杉本さんが元気に退院してから、俺たちは結婚を考えます。急ぐ必要はない。結婚式なんて、いつ挙げてもいいのですから」
「なにを言っているんだ。俺よりも、自分のことを優先に考えろ」
「他の人に頼むなんて、考えられません。俺は、そのくらい杉本さんを頼りにしているんです」
 俺は断言した。なんのわだかまりもない。
「おまえ……そこまで俺のことを」
「俺はいつまでも杉本さんを待ちます。美奈子も、きっと俺の気持ちをわかってくれると思います」
「頑固なヤツだな、おまえは」
 杉本さんの目に、涙が浮かんでいた。
「わかった。俺が病気を治したら、必ず仲人を務めてやるからな。それまで待っていてくれ。樫村くんにも、このことをきちんと伝えろよ」
「わかりました」
 俺はホッピーをジョッキに注ぐと、まるでやつあたりをするように、ぐいっと一気に飲んだ。ぬるくなったホッピーが胃にしみる。
 急に悲しくなって、俺の目にも涙があふれた。泣くために、澤田に来たわけではないのに。杉本さんとふたりで、楽しくホッピーを飲むつもりだったのに……。

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