地球上に、いや宇宙にたった一つしかない石。市場に出回れば、きっと驚くような値打ちが付くだろう。例えば月や火星から持ちかえってきた石よりずっと高価な値打ちが付くのだ。
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あくまで、私が譲り受けたのはダイヤモンドの採掘場で、本業はダイヤモンドを採掘する事業になる。その点は前任者と変わらない。いかに経営コストを抑え、採掘する資源の量と質に拘り、良い買い手を見つけ、利益を得るか。その点を計画の重点事項に考えていた。
もっとも私も、採算の見込めないものを購入したわけではない。過去十年間の記録では、その採石場が毎年コンスタントに成果を出していることを示していた。
「もし君がこの経営に怯えて部屋に籠っていても常に会社は動いているだろうし、よほどのことがない限り赤字を出すことはないだろう」と前任者は言っていた。
しかしこれは私にとって最初で最後の大きな賭けになるだろう。それが始まろうとするこの大事な時期に、他のことを考えている余裕などあるだろうか。
それでも私は、本当にやりたかったことを、同時に、最小限に仲間を集めて、密かに動かしはじめていた。
最小限とは、私を含めてたった三人。一人は、ニェニェリという名のナイジェリア出身の中年で、もう一人は、月島だった。私は彼を会社から引き抜き、ここまで連れて来ていた。
地球の中心まで穴を掘るためには、極端な話、ボタン一つで継続的に掘り進めてくれる掘削機があればいい。しかし当然そんなものは存在しない。
それに私たちの中には掘削の経験者が一人もいない。だからまずは、過去に大規模な掘削の事業に携わったことのある経験者や専門家から話を聞くために、私たちは世界中を飛び回らなければならなかった。南アフリカからサウジアラビア、ロシア、日本と。
それから掘削機が必要になる。予算を踏まえたうえで、探して手に入れなければならなかった。目ぼしいものを複数見つけると、私たちは交渉に入った。
同時に採掘場で地質の調査を進め、結果が出ると、地質に応じたドリルビットを発注した。地質によっては、出来る限り超硬なビットを必要とし、摩耗で交換が頻繁に発生することを想定して大量のビットを予約した。
仮にマントルまで到達すれば、「200度以上の熱」の大きな壁が立ちはだかるため、その温度に耐えられるドリル部品の開発や長い管を下してその中にドリルを通すなどの手段を検討しておく必要もあった。
そして、(想定内だが)私たちは掘削の着手までに丸一年の歳月を要した。