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『Is it strange or roman?』イワタツヨシ

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「もちろん」私は答えた。「仕事の話?」
「仕事と人生の話です」
「重いね」
「ええ」
 それから私は、彼の経歴を聞いた。彼がこの商社に入る前にどういう会社に勤め、どういう仕事をしてきたのか。
 月島が話した。
「どの会社で働いているときも、毎日、何かこう、腑に落ちなかったんです。何かこう、それが本当の自分の人生じゃないような。毎日、苛々して、退屈で、うんざりしていました。そういうふうに思う原因を自分はずっと周りの環境のせいにしていました。自分がこれまで勤めてきた会社は、ネガティブばかりなことを口にしているばかりでろくに仕事もしない連中や、人の上に立つ立場として相応しくないような先輩や上司ばかりだったので。それでいつしか、こういう大企業で働ければ、僕がどれだけ努力してもいつまでも追いつけないような優秀な人たちや、ポジティブで信用のできる人たちと仕事ができるかもしれない、と考えるようになって、必要な資格を取得したり知識を身に付けたりしようとして勉強ばかりしました。でも…」
「この会社も、人の上に立つ立場として相応しくないような先輩や上司ばかりだった?」
「いえ、そうは思いません」と彼は言う。「原因が周りの環境のせいではないことに気付いたんです。それなら、自分が変わるか、もう割り切るしかないですが、それも上手くいかなくて。結局、自分は何も変われていません」
「今、何歳?」と、私は聞く。
「今年、三十四歳になります」
「分かるよ。大体」と、私は大ベテランのように言った。「そういうのも四十歳になれば諦めがつくもんだよ」
「澤北(私の名前)さん、何歳ですか?」
「三十九」
 それで、ふっと月島が笑った。
「今まで本当にやりたかったことは無いの?」と、また私は彼に聞いた。「今、本当にやりたいこと」
 少し悩んだ後、「いちばんは、作家になりたいです」と、彼は答えた。
「作家?」
「この頃、うまく眠れないんです。眠ろうとしても、頭の中で言葉が溢れて。だから夜中にベッドから起きてその言葉をノートパッドに打ち込むんです。爆発しないように、少しずつガスを抜いていくみたいに。そうすると落ち着いて眠れるようになります。眠るためにしている作業なので辛いですが、でも最近は楽しさもあって。もちろん、そうやって書くことを仕事にして生活できるとは思いませんが」
「小説とか、今まで何か書いたものは無いの?」
「ありますが、人に読んでもらうようなものは」それから彼は一つ深いため息をつき、体を前に向き直すとホッピーのボトルを手に取って言った。「例えばこのホッピーを題材にして一つ物語を書こうと思っても、何も思い浮かばないんです」

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 私の周りの人たちは、私が四十歳のときにした決断のことを「無謀過ぎた」とか「失敗だった」と非難した。
 私自身は、それを後悔していないが、人がそれを失敗と言うなら、その原因の始まりは、学生時代にビジネス書で読んだ「仕事と生きることを結びつけすぎない」という誰かの教訓を完全に無視したことだろう。
 そしてもう一つは、四十歳のとき、目の前に訪れた絶好のチャンスを無視できなかったことだ。

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