「デュッセルドルフのビールに負けないくらい美味いです」
「いや、デュッセルドルフのビールが一番だ」
じいさんはバックミラーで俺を睨むように言った。
「いや、そんなことはない。日本のホッピーも一番だ」
俺もバックミラー越しに睨み返す。
車がいきなり止まって、俺は前のシートにつんのめった。じいさんが急ブレーキ踏んだ。
鼻以外も耳まで真っ赤にして、声を荒げるじいさん。
「降りろ!」
マジかよ。しかし、こんなじいさんに送ってもらうのもムカつく。
「降りるよ。こっちから願い下げだ!」
俺は乱暴にドアを開け、乱暴に閉めた。
町中だが、どこに行けば良いのか分からない。参った。
少女を見た。
少女は微笑んだまま、車が進んでいた方角をまっすぐに指さした。
「ゴー! ラーン!」
「オッケー!」
俺はバックパックを背負い直した。
「ダンケシェーン!」
俺はじいさんが車を進める前に、飛び出した。
どれだけ走れば良いのか分からない。とにかく俺は走る。
あっという間に、じいさんの車が俺を追い越して行った。
少女は楽しそうに手を振り、じいさんは俺を見て見ぬ振り。
じじいめ。
俺は大汗。息切れでもうバテバテになりながら、俺は走る。
どうして、こんなことしてるんだろ。
一本足りないくらいで、参加できないなんてどんなイベントだよ。
あぁ、もう休憩しようかな。てか、座り込もうかな。
こんな所まで、何してんだろ。
ずるずると足を進めていると左側にサッカースタジアムが見えた。赤いユニフォーム姿の人がたくさんいる。
俺は自分の格好に気が付いた。スーツもワイシャツも邪魔だ。
ジャケットもワイシャツも脱ぎ捨て、肌着にハッピをまとった。
「こりゃ良いや」
俺はまだ足を止めていない。
徐々に街並みが賑やかになり、人の量が多くなる。
必死の形相で走る俺を見て『ホッピー!』と掛け声がかかる。
その声が連鎖し、デュッセルドルフにこだまする。
「ホッピー! ホッピー! ホッピー!」
その声を引き連れたまま、川沿いに到着。
それらしきテントが見えた。
俺は気力を振り絞って走る。
『OKTOBERFEST』と書かれたゲートが見えた。その前には、俺と同じハッピを着ている同僚がいて、俺に気が付いた。
「こっちだ! こっち!」
「おぉ!」