どうしようかな。どうしようかな。どうしようかな。
時間も無い。
そうだ。同僚に電話をかけよう。
携帯を取り出し、画面をタッチするとすぐに同僚が出た。
「着いたよ。ドライバーさんいないんだけど」
「良かった。出てこないから帰って来ちゃったって言われたんだよ」
「何だよ、それ」
受話口を当てた反対側の耳に少女の大声が届き、同僚からの言葉がかき消された。
「オーパ!」
「シェッツヒン!」
そう言って、目の前の赤鼻のじいさんが膝を折り、大きな両手を大きく広げた。
「オーパ!」
少女が叫びながら、俺の脇を駆け抜けた。少女のショルダーバッグが揺れ、俺の手にヒット。携帯は手からこぼれ落ちた。俺は空中でキャッチをしようと試みるも空振り。携帯は地面に落下。俺は慌てて、バタつかせていた足で、見事に携帯を踏み潰した。
少女とじいさんは抱擁を交わしている。
久しぶりの再会なのかな。嬉しいんだろうな。良い光景だな…。
「うわー!」
思い出し、足を上げて携帯を確認する。しっかり割れている。
「マジかよ!」
その声に、少女とじいさんは気が付いて、俺の方を見た。
俺たちは無言で目を合わせる。
『携帯壊れたやんけ!』と言えれば良いのだが、言葉が分からない。
しかも相手は幼子だ。それにわざわざ海外に来ているのに声を張り上げるなんて、つまらないよ。そうだよ。違う!
俺には行かねばならぬ場所があり、届けなければならぬものがあるのだ。
じいさんが少女と手を繋ぎながらやって来て、俺の携帯を指差しながら、何かを言っている。
何を言っているのか分からない。
少女が口を開いた。
「ソーリー」
「オッケー!」
少女の可憐な表情に思わず即答してしまった。
じいさんもどうやら「ごめんなさい」と言っていたようだ。
二人は頭を下げ、手を繋いで行ってしまった。
どうしよう。どうしよう。時間もない。
逡巡しながら、とりあえず表に出てみた。
初めて外国の息を吸い込む。味が違う気がした。