「これは何だ?」
瓶を手に取りながら、ドイツ語で言われ、次に英語で言われたので、そのくらいの単語ならちょろいぜと理解できた。
「これはホッピーです」
初めて外国で英語を炸裂させた。
「ハッピー?」
「いえ、ホッピー。私、飲む。ホッピー。そして、ハッピー」
バッチリな回答だと思ったら、物凄く怪訝な顔をし、インカムで何かを伝えた。
「こっちへ来い」
手招きをされ、『Zollamt』と扉に書かれたオフィスに連れて行かれた。
変な汗が出て来たが、気が付いた。
はっはーん。きっと「ハッピー」が違う方面でハッピーになると勘違いしたのかもしれない。そりゃそうだよ。だって、ホッピーはこの国じゃまだ市民権を得ていなくて、これからどどーんと打ち出されるんだからね。
スチールデスクの上に、俺のバックパックとホッピーが置かれた。
「これは何だ?」
職員がさっきよりもマジな顔をしている。
「これはビアテイストドリンクです。大人気です。日本です」
職員が手にとっている瓶を振ろうとしている。
「ダメ。ダメ」
しかし、職員は瓶を振り、照明にかざし、目を細め中の様子を確かめている。
瓶の中が泡立っている。
そして、職員が栓抜きをどこからか取り出した。
マジでやばい。何で、そんなのあるんだよ。開けられたら終わる。何で俺は保険をかけて二、三本持って来なかったんだ。止めなくては。
俺はバックパックからハッピを手に取り、羽織った。
「私、ビールの祭り行く。みんなホッピーを飲む。ビールと同じ。みんなハッピー。それ最後。開ける。みんなノーハッピー」
ハッピの『HOPPY』の文字とジョッキのロゴを見せながら、懇願すると職員は手を止め、俺の顔をじっと見る。
これでも『正直な顔をしている』と日本国内では通っている。そこに汗も浮かんでいるから、正直度マシマシだろう。
職員が栓抜きを置いた。
「分かった。進んで良し」
「ダンケシェーン」
『ダイ・ハード3』で敵役・サイモンが言ったから知っていたドイツ語を放つと、職員の手からホッピーをもぎ取り、バックパックに詰めて税関を取り抜けた。
一安心しながら、迎えに来ているドライバーさんを探す。
現地で準備をしている同僚が現地のドライバーを手配してくれているのだ。何せ時間がない。19時に間に合わせなくてはならないが、今のやりとりで一時間が経過し、もう17時を過ぎてしまった。
ドライバーさんは、画用紙とかコピー用紙に俺の名前が書いて目印を持っているはずだ。とっくに俺と一緒に降りた人々の姿は見えない。
そして、いくら探してもドライバーさんの姿も見えない。
どう見たっていない。