「んーー拙者もやはり白ほっぴいが良いなぁ! 香りも豊かであり、後味も潔し! まさに真田家の大望を抱くような味!」
信繁が白ホッピーの水滴を惜しみながら飲む。
「信繁よく言うた! 真田家はお家を隆盛する道を選ぶべし! やはり秀頼様に着くのが武士の生き様よ! 信幸! そちもそう思うだろう?」
昌幸が豪快に笑う。
「兄上の意見も聞かせて下され!」
信繁も信幸に詰め寄る。
「おい、客人! 今すぐ綱家の所へ行って、白ほっぴぃを沢山持って参れ! 今宵は宴じゃ!」
「え……いや、もう明日も早いし、帰りたいのですが……」
「何を申すか! 早う持って参れ!」
「お待ちください!」
バカ騒ぎしていた部屋に静粛が一瞬にして戻る。信幸の声だった。
「拙者は……拙者は黒ほっぴいのほうが美味であると思いまする!」
信幸は今までになく大きな声で叫んだ。
「え……ああ、よかったです。黒も、けっこう美味しいですよね」
俺はよくわかないが、固くなっている空気をほぐそうとして合いの手を入れた。しかし、重苦しい空気は全く変わらなかった。昌幸も信繁も急に下を向いて黙っている。
「確かに、白は香りも豊かであるし、勢いもある。しかし、拙者は黒の苦みが気に入っております……苦みの中にこそ、後々の甘みのある味につながる。今は現実を受け入れて、耐え忍ぶべきかと考えております。それが後々、真田の隆盛につながる」
「それは……徳川に着くということか」
昌幸が信幸を睨む。
「先ほども申しました。拙者は黒ほっぴいが美味であると思いまする。この考えは譲れませぬ」
三人がにらみ合う。まずい。さっきのように日本刀が出るかもしれない。俺は巻き込まれないよう、身を伏せた。
「承知した! そちの好きにするがよい」
「父上! なぜお止めにならないのですか! 兄上! どうか考えなおして下され! 共に白ほっぴい……秀頼様に着こうではありませんか!それが武士の道理というもの!」
信繁が信幸に迫ろうとした時、昌幸が大声で叫ぶ。
「どちらも、あるではないか」
昌幸は、残っていた焼酎を器に注ぐ。
「真田という焼酎があれば、白につこうとも黒につこうとも、美味さは継承される。大切なのは、この美味さがずっと存続されることじゃ。この……ほっぴぃのようにの」
「父上……」
信幸は深く頭を下げる。
「話はついたな。これより、ワシと信繁は豊臣へ。信幸は徳川へと急げ。良き宴であった。
客人、礼を言うぞ」
昌幸と信繁はふすまを開け、去って行った。