「あ、はい。とても、おいしいです」
「それは、いかようにして、食すのであるか?」
信幸が心配そうな顔つきで問う。瞬時にわかった。この人は他の二人と違って、温和な人だ。なんか自分に似ている。
「えっと、こちらのトックリに入っている焼酎と一緒に入れて飲むんです。美味しいですよ」
学生時代、金が全くなかった時に、先輩から教えてもらったホッピー。狭い飲み屋で、「中」だの「外」だの連呼する諸先輩方の飲み方作法を盗み、今も週末には必ず飲んでいる。行きつけの飲み屋で出されるモツ煮をすすりながら、飲むひと時は最高である。
武士相手でも、解説に熱が入った。
俺は栓抜きでキャップを外し、白ホッピーを焼酎に注ぎ、三人に出す。
昌幸も炭酸の泡にはかなり驚いた様子だった。
「まさか、毒ではあるまいな」
怪訝そうな顔つきで泡を見つめている。あまりにも近くで見つめすぎたので、泡が昌幸の鼻についてしまった。俺は必死で笑いをこらえる。
「父上、拙者が毒見を致しまする!」
信繁が一気に器を飲む。炭酸を体験したことがない者が飲むと驚愕して吹き出してしまうかもしれないので、ゆっくりと飲んでと言おうと思ったが遅かった。吹き出したら、毒だと思い、斬り殺されるだろう。完全に終わった。
信繁は一瞬、口の中でためるが、ごくっと飲み干す。
「……これは、なんと申すか……口の中が合戦というか、面白いっ!もう一献!」
信繁は笑顔で俺に器を差し出す。
「待て!ワシにもつげ!」
昌幸も器を差し出す。
「あの、お兄様もお飲みになりますか?」
俺は信幸に声をかけた。
「いらぬ……」
そんな信幸を尻目に、信繁も昌幸も大いに白ホッピーが気に入ったようで、豪快に飲みまくっていった。
「おい、客人。もう一献」
信繁が器を差し出す。
「すいません、もう白ホッピーがちょっとしかなくて。黒ホッピーならありますけど」
「さっきのと違うのか」
「はい」
「おい、信幸、お前も飲め。せっかく来た客人に失礼であろう」
昌幸が真っ赤な顔で信幸に詰め寄る。
「しかし……」
「今日の話はまた明日の朝にでも話せばよいではないか、なあ信繁」
「御意! 御意! では、黒ホッピーなるものを一献!」
「では、皆さんにお注ぎしますね。あ、信幸様には黒と、ちょっとだけ白も」
俺は昌幸と信繁に黒ホッピーを継ぎ、信幸だけには瓶にあまった少々の白ホッピーも器に盛る。
昌幸と信繁は一気に黒を飲み、信幸はゆっくり白と黒を順番に飲んだ。
飲んだ後、しばらく誰も口を聞かない。
「……おい、白ほっぴいは本当にないのか」
昌幸が俺を睨む。
「ひ! 本当にないです」