「あの……ありがとうございました」
俺は一人座っている信幸に話しかける。
「俺も……その、人生で色々迷っていて。このまま今の広報の仕事続けようか……それとも現場に戻ろうか……ずっと今まで悩んでいたんだけど。今、昌幸さんの話を聞いて、その……決心しました。もう迷いません、俺も」
信幸はじっと座っていたが、やがてすっと立ち上がる。
「共に……信じる道で戦おうぞ」
笑顔で俺の肩を叩く。
「あの……最後に戦に勝てるおまじないをお伝えします」
俺は信幸をじっと見つめた。
「まじないとは……如何に?」
「ホッピーでハッピー! 掴むぜラッキー!」
「んん? 今一度申してくれ」
「ホッピーでハッピー! 掴むぜラッキー!」
「承知した! ほっぴぃではっぴぃ! 掴むぜらっきぃ!」
信幸はそう叫び、やがて、すまを開けて静かに去って行った。
「お客様! お客様!」
聞きなれた声が脳内にこだまする。
目を開けると、ホテルの従業員のおばちゃんが心配そうに俺を観ている。
「あれ? ここは」
「やだぁ、お客様。こんなところで酔っぱらって。真田様に笑われますよ!」
俺は真田という言葉を聞いて、我に返る。
辺りを見回すと、外灯に照らされた道路をが見える。
「あれ?」
「この上のお堂はね、犬伏の別れって言いましてね。父・真田昌幸と息子の信繁、信幸がそれぞれ豊臣家と徳川家につくことを決めた場所なんですよ。夜でなく、明日の朝に見物に来て下さいよ! 佐野ラーメンは逆方向ですから! お気をつけて!」
笑いながら、おばちゃんは去って行った。
夢だったのだろうか。
俺は立ち上がると、両手に違和感を覚えた。
観ると、右手には白ホッピー、左手には黒ホッピーの空き瓶を握っている。
じっと両方の瓶を観ていたが、やがて俺はにやっと笑った。
「もう俺は迷わない、信じる道がわかったから」
空腹を抑えながら、俺は佐野ラーメンを食べにゆっくりと、道を歩み始めた。