太郎の会話にするっと乗った。
「ほな、3級あげとくわ。ボーナスポイントやで」
今日はわたしが父親代わりだったハルヲさんを探してることは、話しておこうと思った。
「あのね、」
「うん? 今日のメニューか? ジャガイモとな人参キャベツとセロリやろうそれにあと何入れたろうかなって」
太郎は勝手に話を組み立てていた。
「え? ちゃうの? なんか言いたいことあるん?」
レンジで野菜の下ごしらえをしながら言葉をつなぐ。わたしが黙ったせいで、太郎が勘違いした。
「栞ちゃん、なんか引いてる? 変な家やなって思って。カフェ何とかとか料理ちまちましていややとか」
素っ頓狂なアングルを持った太郎に、瞬間救われて、ハルヲさんのことは後にしようと思った。まな板の上で、人参とジャガイモがころころと音を立ててシンクの上に転がった。
太郎が作ろうとしているのはロールキャベツだった。
カフェカーテンが、西日にさらされたまま緑の風をまとったまま揺らされていた。
銅鍋で煮込んでる間に、太郎が冷蔵庫から出してきたのは冷えたグラスとホッピーと、キンミヤ焼酎だった。
デジャヴュかと思った。
ハルヲさんが、夕食の後にはいつもそれを呑んでいたから。
「栞ちゃんは、まだまだ。大人になってから。大人になってハルヲおじちゃんと一緒に呑もうね。長生きしなきゃね」
ハルヲさんの酔った声が甦ってくる。
少し泣きそうな気持を抑えて、堪えた。
どこかで約束を破ったらいけないと思って、わたしはホッピーを避けてきたのだ。いつかハルヲさんと呑むまでは誰とも呑まないと。それがこんな形で、思いがけず破られた。
テーブルの上に並んだ太郎の料理はどれもおいしかった。ホタテと大根のサラダなんて、いつもリクエストしたくなるぐらい絶品だったと思う。ふたりでこうやってはじめての食事できることの幸せを十分にかみしめたいのに、それでもなにかが引っかかってる感じがして、急に太郎と話がはずまなくなっていた。それを修復したくて、わたしはロールキャベツの思い出を喋った。
「栞のお母さんのロールキャベツってどんなん?」
「わたしが熱を出したり、風邪を引くと必ずその初日にロールキャベツが食卓に並んだんだよ。太郎みたいに野菜がそのまま入ってるんじゃなくて、ただひたすらサイコロ切りにした人参やジャガイモと、これでもかっていうほどたくさんのキャベツの葉っぱでひき肉を巻いてあって、それがいつも鍋いっぱいに作られていたの」
太郎はおいしそうな顔でホッピーを注ぐ。
「やさしいお母さんなんやな。はよ元気になりやってことやろう」