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『よしゅくの酒』福川永介

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「じゃあ、私の夢や願いも叶いますよね、きっと」
「どんな夢だい? 彼氏との将来のことかな」
「さすが、ご名答です。私は結婚したいって思ってるんですけどね、彼が仕事人間なので……とほほ。それに私自身の仕事も大丈夫かなあって」
「大丈夫かなあ、ってのは?」
「いつも損な役回りばっかっていうか……」理沙は、会社での不満を思い返しながら続けた。
「真面目にやってても空しくなるだけなんですよね。かといって、テキトーな、いい加減なことは自分の性分じゃないですし。バカ見るだけなんですよね……真面目さって」
 虚しさの雨に打たれたように、理沙はうなだれた。
 古谷が席を離れる気配があった。しばらくすると、「はいよ」とホッピーとグラスを二つ持ってきた。「まあ、一杯やろうぜ」彼は二人分のホッピーを作った。焼酎で割り、かき混ぜる手つきに、商売人特有の滑らかさがあった。
「いただきます」グラスに口をつけて、ちびりちびり飲んだ。
「真面目さはバカを見ることもあるかもしれないね。でも、その真面目さのおかけでおれは今生きている。希望を持って。店まで出すことができた。その客の中には、いつも美味しい焼き鳥をありがとうと笑顔でいってくれるお客さんもいる。たった一人の少女の真面目さが、こんなに多くの人の幸せをつむいでんだよ。バカを見たとしても、悪いもんじゃない」
 へへっ、と古谷は白い歯を覗かせて笑った。
「さあ、ホッピー飲んでおくれ。理沙さんと彼氏の幸せな将来にカンパーーイ!」
 かつんと合わせたグラスの向こうには、美しい桜模様が広がっていた。

【6】
 翌日の午後。
 拓実は古谷に謝罪した。深く頭を下げた。正確にいえば、土下座をした。
「いいんだよ、そこまでしなくて」
 開店に向けての仕込みをしていた古谷は、突然の拓実の訪問に驚いていた。
「いえ、酔っていたとはいえ、社会人としてあるまじき行為でした。本当に申し訳ありませんでした」
 拓実は顔を歪めて謝った。何度も何度も謝った。
「もう気にするなって。それだけ、彼女のことを想ってるってことだ」
 古谷は腰をおろして、拓実の肩をぽんぽんとたたいた。すいません……とつぶやき、拓実はようやく立ち上がった。
 昨夜の一件があった後、理沙は拓実に事情を説明した。古谷がホッピーをサービスしてくれのには、深い深い理由があることを。
 酔いが覚めたことと、その事情を聞いたことで、拓実は慌ててよしゅくにやってきた。できれば一緒に来てほしいといわれ、理沙も同席した。
 ただ。理沙にはひとつ気にかかることがあった。
「拓実、今日は月末の土曜日だから、会社で会議があるんじゃない?」
 拓実の会社では、営業成績の報告を含めた定例会議が月末の土曜にある。
「あるけど、こっちの方が優先だ」

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