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『よしゅくの酒』福川永介

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【1】
 理沙はとまどった。
 テーブルに運ばれてきたホッピーの瓶を見てから、店主のご機嫌な顔に訊ねた。店主の目尻の皺には、仕事に対する充実感が溢れていた。
「あのう、いつもサービスしていただいて、本当にいいんですか?」
「いいんだよ、いいんだよ。美味しく飲んでおくれ。焼酎のおかわりはまだいいのかい?」
 はい、理沙は焼酎のグラスを一瞥(いちべつ)してから頷(うなず)いた。
 どうぞごゆっくり。にこにこと微笑むと、店主はカウンターに戻った。
 理沙は居酒屋「よしゅく」に来ていた。テーブルをはさんで向かいには、同僚の晴海(はるみ)がもつ煮込みをほくほく味わっている。
「いいのかなあ、これ」理沙はホッピーの瓶を見つめた。
「何が?」晴海の猫目がきょろりと動いた。
「あの店長さん、ホッピーだけサービスしてくれるの。しかも、たぶん私だけなんだよね」
「勝手にサービスしてくれるんだから、ありがたくもらっておけばいいのよ」
「でも、なんだか申し訳なくて。何で、わたしにサービスしてくれるんだろう」
「理沙も鈍感ねー。あなたのことを気に入ってるからに決まってるじゃないの」
「えっ、だって、あの店長さん、もう六十は過ぎてるでしょ?」
「男ってのを分かってないな~理沙は」上目遣いに目を細めると、晴海はホッピーに口につけた。
 しばらく酒を酌み交わし、会社の愚痴や、お互いの彼氏の話に盛り上がった。和気あいあいと居酒屋の空気を吸っていたら、晴海の喋る雰囲気が変わった。おねだりするように、語尾を伸ばす口調だった。
「ねえ、理沙。お願いがあるんだけどね」
「なに?」
 きっ、きた、と理沙は思った。おそらく、ここからが本題なのだろう。
「あのね。この書類なんだけどね。明日の昼までにまとめて、営業課の神埼さんに提出しなきゃダメなのね」
 晴海は書類を眺めて肩をすくませた。アヒル口になっているのは、彼女の“困ったアピール”の癖だ。
「でも、私ね。実は明日、彼氏と旅行いくのよ、有給とって。彼が明日からしか行けないっていってさ。それでね、理沙……」
 なるほど、彼女の魂胆(こんたん)がわかった。
「それで……私にやれってことね?」
「察しがいーねー、さすが理沙サマ~」
 晴海は小さく手をたたいて、小鳥のようにちょこちょこ首を上下に振った。
何が理沙サマだ……。
「ここは私のおごりだから。それ、よろしくね~」
 晴海は、文字通り晴れた日の海のようにキラキラとした表情を浮かべると、伝票をもってカウンターへ向かった。お会計をすませ、じゃあね、と手を振ってらスキップするように店を後にした。

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