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『よしゅくの酒』福川永介

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 姿勢をテーブルに直し、理沙は肩を落とした。ホッピーを飲んで、ため息を流し込んだ。私には、晴海のようなしたたかさが足りないなあ、と思った。NOといえない日本人。畳にくっついたガムのような不快さが、理沙の頭に粘着した。
 理沙は席を立った。
「ごちそうさまでした」「ありがとうございました」「いつも、サービスしていただいてすいません」「いやいや、いつもご贔屓(ひいき)にしてもらってますんで。また来てください」
 店を出て、夜道を歩いた。ふう、美味しかった。よしゅくの味はいつも裏切らない。
 薄暗い通りを一人歩いた。肌寒い冬の風に、手を揉んだ。定間隔で光を放つ街灯は、汚れた黄色の輪っかだった。
 声が聴きたくなった。励ましてほしいと思った。理沙はスマートフォンを取り出し、拓実に電話した。四回目のコールで、恋人の声が聴こえた。
「もしもし、たく―」
「あっ、理沙? わりい、今忙しいから、また」
 通話が途切れると、耳から胸へと寂しさが舞い込んだ。鼻から息を漏らし、真っ暗な空を見上げた。
 仕方がない。彼は仕事人間だ。弱った心に言い聞かせた。
 拓実は、私との結婚を考えてくれてるのだろうか……。理沙はスマートフォンの待ち受け画面を見てから、再び歩き出した。

【2】
 誰もいない早朝のオフィス。
 空調の音だけが、寝息のようにすううっと鳴っている。時折、ばちんと弾ける音に肩をびくんとさせた。
 理沙はいつもより二時間前に出社した。晴海に頼まれた書類を仕上げるためと、理沙自身の仕事も山積みだったからだ。
 コピー機のスタートボタンを押して、小さく舌打ちした。用紙が補充されていなかった。商品管理課のスタッフは皆、だらしがない……と理沙は辟易(へきえき)していた。コピー用紙の補充にせよ、落ちてるごみを拾うことにせよ、電話対応にせよ、仕事の連絡事項にせよ……せよせよせよ……
「ああーダメダメ」理沙は目を強くつぶって、首を横に振った。こんなことでストレスを溜めたくない。悪いものを断ち切るように、短く強く息を吐くとデスクに戻った。
 パソコンとにらめっこをして、作業に集中した。カタカタ、とキーボードが仕事の音色を奏で続ける。他人の仕事を朝早くからやっている、と思うと、その音は不快な音色に聴こえた。
 時間が進むにつれ、オフィスには「おはようございまーす」と、一人また一人とスタッフが入ってきた。
 作業は二時間以内でなんとか終えた。もう一度確認して、理沙はよしっと頷いた。
 商品管理課の朝礼を終えると、先ほど完成させた書類をファイルに入れて、営業部課のオフィスへと向かった。
 神埼を見つけた。晴海が書類を渡してほしいといっていた男性スタッフだ。大きなファイルとパソコンの画面を交互に見ている。その切れ長な目は、刑事役の似合う中堅俳優のようだった。
「おはようございます、神埼さん。商品管理課の大原です。こちら、資料になります」
 理沙はファイルを神埼に手渡した。神埼の薬指の指輪がきらりと光っていた。
「おはよう。あれ? これは河合さんに頼んだ資料だけど」

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