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『オンリーワン』洗い熊Q

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 その父の答えに私達は笑い合っていた。場を和ませようとの冗談だったのかも知れない。お陰で私の知らずに構えていた雰囲気も緩んでくれた。
 笑い終わりに一息入れて、私は少しだけ引っ掛かっていた事を訊ける気持ちに素直になった。
「……ねえ、お父さん。私、仕事を辞めないのを本当はどう感じたの?」
「仕事を辞める?」
「うん。結婚したら退職して家庭に入る。普通にお父さんもそう願っていたんじゃないかと」
「今のご時世で共働きの方が普通だろ。子供が出来たらいざ知らず」
「まあ、そうだけど……結局、式も披露宴も仕事を理由に為なかった訳だし……」
「そんな事を気にしていたのか」
 父はホッピーを一口だけ飲むと、しんみりとそのコップを静かにテーブルに置いていた。
「お前達は来年には披露宴だけはと言っていたが、正直に俺はそれもやらなくてもいいと思っているよ」
「仕事を優先した方がいい?」
「そうは言ってはいないよ……まあ、余り周囲を気にするな」
「……ありがとね、お父さん」
「うん?」
「お父さんだけだったね。私達が決めた事に賛成してくれたのは……」

 私がそう言った父の相づちは、ああという思い出しの顔だった。その上げた父の顔の前に、お待ちどう様と小声の主人が注文していた焼き鳥を置いてくれていた。
 父は焼き鳥の乗せられた皿を手に持ちながら周囲を見廻す。
「それが言いたいだけで俺を呑みに誘ったのか? こんな店にまで呼んで……」
 父が言い掛けに周りを見た時に、隣席にいた常連らしき男性と目が合っていた。無精髭に白髪が交じり、びっしりと蓄えて唇が隠れる程の。帽子を深々と被った初老の印象の方。
 視線を交わし代わりに互いに軽い会釈をしていた。

「お嬢さんと一緒ですか? 良いですねぇ」と初老の方が声を掛けていた。
「ええ、まあ」と父はやや謙遜気味に答えていた。
「わしには息子はおるけど娘はおらんでねぇ。娘と飲みに来るなんて羨ましい限りですよ」
「いいや、私には息子はおらんですよ。まあ、今日は初めて娘に連れられて……」
「おや、初めて一緒にですか?」

 父と初老の男性が流れで会話を始め、それを見て背後にいたテーブル席の中年男性が話しに割り込んで来た。
「なぁにトクさんはナンパなんかしてるの? 調子に乗ってさ~」
「誰が男相手にナンパなんかするかぁ。それにちょっと気になって話しただけじゃあ」

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