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『オンリーワン』洗い熊Q

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「そうだな……」
 父は壁に貼られていた、黒マジックで書かれたメニュー札を見ている。
「お父さん、一緒にホッピーにしない?」
「ホッピー?」
「そう」
 本当はその後に“昔よく飲んでた”と付け加えたかったけど。敢えて私は避けていた。
「そうだな……そうするか」
 一瞬だけ、懐かしむ笑みを滲ませた父。それを見れただけで私は嬉しかった。
 父は迷わず注文を告げていた。
「取り敢えず二人とも白ホッピーのセット。氷は入れないでくれ」
 慣れ親しんだ様子の頼み方。普段もよく頼んでいるのだろうか。私にとってはその姿はとても懐かしく感じる。

 御通しに塩辛。それに白菜と胡瓜の浅漬けを目の前に。
 常連さんで満席近く、賑やかな店内。出されたコップに入る焼酎に、瓶に露が滴っているホッピーが添えられて。
 父の焼酎に私がホッピーを注いで上げる。たっぷりと泡立てる様に注ぐ。記憶の中でのコップには白い泡が際立っていたから。
「本当はコップもキンキンに冷やした方が良いのにね」と注ぎながら私が呟いた。
「そうだな。でも居酒屋での出され方は大体、昔から変わらんよ。俺はこの居酒屋の飲み方が好きだけどなぁ」
 はにかみながら自分の注ぎが終わると、お返しに私のコップに父が注いでくれる。
「急に思い立ったのか? それにはしては店まで以前から決めていた様だけど」と注ぎながら父が訊いてきた。
「ああ……うん。誘うの今日にしたのは思い立って。お店は……何となくね」
「お前の歳で洒落てなく、こんなしみったれた店を選ぶなんて……いやいや失礼だな、お店にそんな事を言ったら。良い所だよ、ここは」
 注ぎ終えた父は、自分のコップを取って笑顔で軽く掲げた。
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
 控えめな音で打ち合わせるコップ。乾杯は何度も為ているけど、二人きりでの乾杯はこれが初めてだと思った。
 父は乾杯後の一口で半分近くを飲み干し一息吐いて言った。
「美味いな」
「だね」
 カウンター越しに、お店の主人が私達の頼んだ焼き鳥を焼き始める。鶏モモに捏ね焼き。肉汁が滴って落ち、コンロ上で蒸発する音が聞こえて来ている。
 一口、二口。互いに間を置く様にホッピーを飲んだ後、父の方から喋り出していた。
「何か相談事でも有るのか?」
「え? 別にそんなじゃないよ……」
「いや、何か改まった感じなもんだから……急に不安になったのかもとね、結婚に」
 口に付けたホッピーを思わず私は吹き出しそうになった。
「私が? マリッジブルー? そんなのある訳ないよ」と私は笑った。
「何だ、そういうのをマリッジブルーというのか? 初めて知ったよ」
「じゃあ、今間でお父さんはマリッジブルーを何だと思っていたのよ」
「場所だと思っていたよ。新婚旅行先に人気な海のリゾート地なのかとな」

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