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『オンリーワン』洗い熊Q

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 たった一つの改札口から直ぐに駅出口。もう直ぐに歩道を挟んでの道路。狭い道なのに交通量がとても多い。
 渋滞している車の下から覗かせる白線の横断歩道。その信号が変わるのを待って、私達は道の反対側へと歩いて行く。
「何処へ行くんだ?」
「直ぐ目の前よ」
 駅の反対側に小さな店舗が数軒並んでる。美容院に喫茶店に。その軒並みの一番端にある、入口が一番小さな店。
 引き戸の扉の前に、こじんまりと周囲に黄色く丸いネオン達が光る看板。引き戸の横上には控えめの換気扇が回転して、脂混じった香ばしい匂いを出している。
「焼き鳥屋か?」と父が聞いてきた。
「居酒屋よ、普通の」
 簡単な説明もままらないで私は店の引き戸を開けていた。

 
「……今晩は」
「いっらっしゃい」
 引き戸から顔を覗かせ気味で挨拶する私に、擦れ声で元気の良い出迎えをくれたのは店の女将さんだ。
「お二人さん? カウンターだけど良いかしら?」と女将さんが言った。
 父に了承得る事なく私は頷いていた。
 本当に狭い居酒屋。小さなテーブル席は三席程あるが、カウンター席との間は大人が横になって通るしかない程に近い。
 そのテーブル席は何人かのお客さんで占領され、カウンター席にも二人ばかりお一人様が。
 私達二人が座ればそこも満席に近くなる。予想外にお店は盛況だった。
「ここでいい?」と私は父に訊いた。
「ああ」
 入口に近い席に私達は座った。

 カウンターテーブルの前には生ものが入れられた冷蔵ショーケース。その上に幾つもの日本酒や焼酎の酒瓶。招き猫や何処の物か知らない置物も混じって置かれていた。
 壁にある棚にも酒瓶達が並び、私達が知らない演歌歌手のポスターも貼られる。
 場末の居酒屋。その言葉が本当によく似合うお店。カウンター越しに、初老の店のご主人が椅子に坐ったまま無言の挨拶を返していた。
「よくここ来るのか?」と父が訊いていた。
「ううん。これで二回目」

 この店には尊敬する男性の先輩方に、随分と前に一度だけ連れられて来ただけだった。だからほぼ一見に近い。
 でもそれでも、ここを選んだ理由は私には幾つか有った。

「まさかお前に呑みに誘われるとは思わなかったよ」
 父が店内を伺いながらしみじみと言っていた。
「私が誘うのがそんなに意外?」
「いや、まあ意外に思う程でもないか。お前もそれ相応の歳だもんな」
「……偶にはね。そう思っただけだよ」
「そうか。でも、こんな所に二人で来るのは初めてか」

 初めてじゃないよ。昔、よく一緒に行っていた。そう口に出そうとして私は止めていた。
 意図を感じとる、思い出して貰う。そこまでの想いはない。でも何となく、懐かしさに触れてくれればとの願いは少なからずあった。

「お飲み物は何にします?」と女将さんが笑顔で訊いてきていた。

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