彼からは式を挙げる事に積極的に考えていてくれていた。
でも互いの仕事の日程の摺り合わせの難しさに、思わず彼からどうしようと弱音が出た。
それ程に今年の私達は重要な時期いたんだ。籍を入れることさえ遅らせようかとの言葉さえあった。
そんな二人して懊悩の中で、今すぐの結婚を勧めてくれたのが私の父だった。
「向こうの親御さんも納得済みなんでしょ?」と心配げな顔で知美が聞いてきていた。
「うん……まあ、ちゃんとした披露宴は来年以降という事で了解してくれて」
「親戚等への面目か~。でもどっちの両親も寛大だね。普通だったら何が何でもって感じじゃない」
「……お父さんが説得してくれたんだ。向こうのご両親を。どうしてそこまで為てくれたんだかは分からないけど。まあ、両家族だけでの細やかな婚前式はしたけどね」
「へぇ~優しいお父さん。典子の事を理解してくれてんだね~」
「どうだろうね……分かんない」
下の二人の妹は早々に結婚した。
次女の旦那様が婿養子となったので、私の長女としても責務も早々に開放された。
そのせいかも知れない。ううん、そのせいにしてはいけない。
私の家庭に対する積極性が無かったのは。
両家族揃っての婚前式。
割と近場な、そして地味な、地元で老舗の御寿司屋さんの座敷を借り切って細やかに行った。
妹夫婦達も揃って参加してくれて、始め思っていた慎ましい感じにはならなかった。
向こう方の御両親も喜ばしい顔をしていてくれて、彼と二人で「良かったね」と。
賑やかに盛り上がる婚前式の場。
その中で、奥の端の席で顔を赤らめて、ひっそりと微笑んで父が飲んでいたのは瓶ビール。
一人でコップに注ぎながら飲む姿には苦みがあって、何処か寂しげにも見えた。
「そいえばさ、アンタさ、ホッピー飲んでなかった?」
知美が自分のスマホをいじりながら唐突に訊いて来ていた。
「え、なに?」
「披露会の時よ。隠れて飲んでなかった?」
「いや別に隠れて飲んでないよ……お店にあるの知ったら急に飲みたくなっただけ」
「ああ、そう」
知美は自分で訊いておきながら、興味なさげにスマホの画面をいじり続けていた。
「何よ……悪い?」
私が膨れっ面で訊くと、知美はようやく画面から視線を外した。
「別に悪くないよ。ただ珍しいなぁと思っただけ」
「そう? そうかな」
「まあ私もダイエット目的で、よく飲んでたけどね」
「結構な呑兵衛だよね、知美は」