美保の目線がノアのTシャツに2秒ほど留まったのを、由衣は見逃さなかった。
ルイスは美保にスラスラと英語でノアを紹介し、そのまま4人は乾杯をした。
由衣はやっと張り付いた笑顔から解放された。ほどけた緊張の糸で帽子くらいは編めそうだった。
その後、ノアについての話題が出ていたと思うが、笑うタイミングが同じ三人のテーブルに取り残されたタコと由衣だけが、静かに会話の動向を見守っている。
由衣は盛り上がる三人を横目に、一人ホッピーを味わうことにした。
キラキラとしたビーズのような気泡が揺れている。シュワリと口の中に金色が流れ込む。苦味のない軽い口当たりが新鮮だった。けして強引に主張しないが、協調性のあるホップの香りは由衣に親近感を覚えさせる。
「Wow!由衣さん、何?ビール?」
ルイスが飲みかけのボトルを指差し興味津々に尋ねた。由衣は慌てて首を振る。
ホッピーのみ注文すると、カップと蓋が開いた冷えたホッピーボトルで出てくるスタイルらしい。
「It ‘s not beer. ホッピーっていうの。ほら、これもこれも。みんなポッピー入ってるから!」
美保は、みんなのドリンクを指差しながら笑って言う。
「コレ、ホント、オイシイデス。」
ノアは寝癖を揺らしながら嬉しそうに言う。定番の、ホッピー×焼酎が特に気に入ったようだ。
美保の説明を聞きながら、異国の4つの目玉は遮光瓶に入った液体を感心して見つめている。
ふと周りを見渡すと、父親世代のビジネスマン、盛り上がる若者達、女子の華やかな語らいの場に、あらゆる人々のあらゆる感情を練り込みながら、平等にホッピーは存在していしてた。
「Hoppyって、ニホンだね。」
ルイスが言った。
日本が世界最古の国でいられるのは、様々なものと調和し、受け入れてきた包容力があったかからではないだろうか。
混ざりあって築かれる新しい世界。この島国に神々が沢山いるように、どんな組み合わせもバリエーションもあっていい。引き継がれる歴史を磨き、時代に調和していく。
多様性が求められるこれからの未来。
ホッピーは、まさに<日本>だった。
由衣は、勇気を出してノアに聞いてみる。
「Do you like it?」