「プチお疲れ様会だね~。さ、飲も飲もっ!」
「かんぱーーい!!」
息のあった二重奏が辺りに響く。
美保はゴクゴクゴクと3回喉を揺らした。
「ん~!美味しい!」
喉の乾き+お洒落な空間+金曜日という最高の付け合わせが、より一層舌の上を美味しくさせた。
由衣は細かく刻んだジンジャーが浮かぶ琥珀色のドリンクをゴクリと一口。辛めのジンジャーエールに芳醇なホップの香りが鼻を抜ける。唇がカップを離さない。さらにもう一口、今度はもっとホップを感じたい。由衣は自分でも疑うほど、ジンジャーエールの奥にある、大人の香りが欲しくなった。
「コレすっごい好きかも。」
由衣の口元からようやくカップがテーブルに戻る。
「よかったね〜。ホッピーって何かお父さんって感じであんまり飲まなかったけど、なんか気取らない感じが楽しいね。今度さ、弥生も誘って泊まりに来てよ。ホッピーパーティーでもしない?」
「いいね!楽しそう。新たなメニューの考案とか?」
「それいい!!」
美保は目の前の唐揚げを手でつまみ、ポイっと口の中に放り込んだ。
切れ目のない雲のようなガールズトークと引き換えに、コップの中の液体はあっという間に姿を消していた。角の取れた氷達が「おかわりいかが?」と鳴き始める。
「もう一杯飲んじゃおっかな~。」
美保が上目使いでおどけて言う。
「賛成。」
「私買ってくるから荷物見ててくれる?同じの?」
美保は喋りながら財布を出して椅子を引き、体をバーカウンターに向けていた。
「えーっと。あの、ホッピーだけってあるかな。」
「割らないの?」
「そのままで飲んでみたい。なければ同じので。」
「了解!」
美保は喋りながらジワジワとバーカウンターに向かってしまうので、最後の会話は5mほど離れてしまった。彼女の心の半分はすでにカウンターに到着している。
太陽が残した光の粒が、氷のように夜の闇に溶けていったせいだろうか。木と木の間に揺れる<Happy Hoopy Cafe>のバナーがより明るく照らし出され、芝生の香りを含んだ風に身を任せている。
由衣はサイコロ型にカットされたチーズを舌で転がしながら、仕事の事を考えていた。
「I don’t know.」でやり過ごす自分がすでに限界を超えている。
逃げ腰だった自分の腰は、くの字に曲がり、とうとう前すら見えなくなってしまった。