午後の仕事が始まる。アメリカ本社から来る社員の名前は〈ジョンソンさん〉という情報が、自然と三人の耳にも入ってきた。
人事となると、由衣と弥生の直属の上司になる。どんな人かを知っているのは、去年本社から異動になったラテン系アメリカ人のルイスと、出張で本社に渡米した事のある本田さんだけだった。本田さんは無口な方なので、あまり何かと公開するタイプではないが、ルイスの方は聞けば教えてくれるだろう。ただ、長いミーティングに捕まり、なかなか姿を見せないでいる。
「どうやらジョンソンさんは、イケメンらしい。」という情報も出回り、興味本位で噂をする女子社員達の心躍らせるオーラが、オフィスの中を一層艶やかにした。
結局、来週からジョンソンさんが勤務になると正式に発表されたのは、ほぼ定時の五時半頃だった。色めき立っていたオフィスは、徐々に落ち着きの色を取り戻し、時計は淡々と週末へ向かう針を進めている。
「花金だー!なんかちょっと飲みたいかも。」
「ねぇ美保、その表現古いから。悪いけど私はパスね。彼氏が迎えに来てるのよ。」
「いいなー。私も彼氏欲しいー、どっかに落ちてないかな。ね、由衣は今夜どうするの?」
「う~ん、特に用事はないけど。でも私あんまり飲めないよ?」
「知ってる!知ってる!じゃさ、裏の庭のカフェにでも行ってみない?サクッと寄ってこうよ。」
「うん、軽く行こうか。」
「楽しんで来てね。来週は私も参加する。」
「了解!じゃ、来週ね。」
彼に会う前にメイク直したいからと弥生は化粧室に向かい、由衣と美保はエレベーターに乗り込んだ。疲れているはずなのに、金曜日の夜の足取りは羽のように軽い。いつも「金曜日の夜の足」だったら、英会話教室も軽やかに行けたかもと由衣は思った。
公園へと向うすれ違う人の多くは、由衣達と同じく弾むように歩いていた。
庭へ通じる自動扉が「どうぞ。」と言うように口を開く。
昼の時とは違う生暖かい空気が頬を撫でる。日は完全に沈んでいないが、夜の気配はすぐそこまで来ていた。
「もう結構人いるね。」
目を細めた美保が、空いている座席数を目ざとく確認した。
パークカフェでは、芝生の上にテラスタイプのカフェが出現し、お酒と共に心地よい空間を楽しめるのが夏の定番となっている。
今年はホッピーだった。
緑の中にライトで照らされた黄色のバナーが、木と木の間に揺れている。艶のある赤色で<Happy Hoppy Cafe>と書かれていた。入り口には女性の身長ほどのホッピーボトルが、さ迷う蝶達を導くように、中から柔らかな光を放っている。遮光瓶を忠実に再現しているせいか、ボトルから放たれるその光はどこか暖かく、懐かしさ感じた。
美保の目視通り、半分以上のテーブルの上を、楽しげな泡がカップの中で踊っている。
芝生の上にあるはずのない空間が、夏の夜に浮かび上がり幻想的な雰囲気さえ感じる。