「いいよいいよー一緒に飲みましょう。男二人で寂しい週末だなってちょうど話していたところだったから。こんな美人さんたちと飲めるなんて本当ラッキー」
(うぇ、この黒ぶち眼鏡。チャラ男系かぁ。早まったかも)
自分のジャッジを少し悔みつつ、美春に目をやるとすでにチャラ男にウイスキーを注いでもらっているところだった。和那はというと、先ほどの店員を呼び梅酒のお代わりを注文している。
(まぁ、キリのいいところでさよならすればいっか。ウイスキーに罪はない)
小さくため息をついていると、もう一人の黒ぶち眼鏡から新しいジョッキを差し出された。
「そちらのジョッキ、もう氷溶けちゃっていると思うので」
いつのまに注文してくれていたのだろう。しっかりと冷えたジョッキの中で琥珀色の液体がとろりと揺らめいている。
「あ、すみません。ありがとうございます」
受け取る瞬間、少しだけ指先が触れた。ぴりりりと電流が流れるような感覚が背筋を走る。びっくりして顔をあげると、にっこりとほほ笑んだ男と目があった。
なんだか急に恥ずかしくなり、急いでジョッキにホッピーを注ぐ。男はそんな様子をにこにこと見守っており、萌花が注ぎ終わると同時にマドラーで軽くステアしてくれた。ゴツゴツとした手の甲に血管が浮き出ているのをみて、またドキリとしてしまう。
「それじゃあ、楽しいホッピーの夜に!かんぱーい!」
チャラ男の音頭でグラスを合わせる。ジョッキのぶつかるガチリという鈍い音。ワイングラスや薄はりグラスの繊細な音とは違う、頼もしさを感じる音だ。
ホッピーのウイスキー割は予想以上においしかった。喉越しは変わらずさわやかなのだが、コクが増してなんだか海外の重厚なビールを飲んでいるような、そんな不思議な感覚だった。
「わたし焼酎よりこっちの方が好きかも」
萌花が思わずつぶやくと、眼鏡の男性はうれしそうに笑った。
「でしょう。自分、もともとお酒そんなに得意な方ではなかったんですけど。こいつに教えてもらって飲んでからすっかりハマっちゃって。おいしいって感じてもらえたならよかった」
(どうしよう。さっきからこの眼鏡の言うことすべてにドキドキしてしまっている……)
萌花は落ち着こうと小さく深呼吸をした。わたしが好きなのは金持ちエリート。将来は結婚して専業主婦になってタワマンに住んで、買い物三昧をするんだから!
「えぇ、山城さんって40歳なんですか?!同じ年くらいかと思った」
美春の声に驚き顔をあげると、山城と呼ばれたチャラ男が自分の免許証を見せているところだった。
「同じ年ってことは20代ってことかな?やだなぁ美春ちゃん、そんなわけないじゃない」
「あはは、山城さんお上手ですね。わたしたちもう30歳超えてますよ」
「まじでー?!そっちこそ驚きなんだけど!」
さすがチャラ男だ。軽いトークをどんどんと繰り出している。それにしてもチャラ男が40歳ということはこっちの眼鏡も……
「山城さん、テンション高いなぁ。あ、僕は千石といいます。山城さんとは会社の同僚、みたいなもので。僕の方が少し年下で 今年38歳です。って年齢はどうでもいいか」