一瞬で夕べの事が鮮明に思い出される。
桜並木の4つの端っこを右往左往しながら走っている間に結局ショッピングモールの退出時間をとっくに過ぎてしまっていた。慌ててスマホを開けると彩香ちゃんからの留守電が入っていて、時間が迫っても戻って来ない私を見限って、社員の小林さんに連絡して来てもらったと。
(レジ閉めも終えて店は大丈夫だからそのまま帰宅してくださぁ~い!お疲れ様でしたぁ~)と間延びした彩香ちゃんの声が留守電から流れてくる。
その声を耳に残したまま放心して家に戻って眠った。玄関から2階に上がる階段の途中でお母さんが(亜希~?)と疑問符の付いた声で呼んでいた。
何だかよくわからん、酷い一日だった。
そう言えば、今夜リーダー会だった。
ホッピーとか言ってたなぁ。ホッピーって確か中年のサラリーマンおやじが飲む安いお酒だよなぁ?夕べの惨事を思い出すとどうせ奢って貰えるなら一杯千円ぐらいの高いカクテルとかが良かった。と思いながらも正樹君に会える嬉しさが勝っていそいそとシャワーを浴びた。
「らっしゃっいっ!」
焼き鳥の煙が立ち込める店内は、狭いながらも賑わっていた。
「おぉ~こっち!亜希っ!」
正樹君の姿が見える。久しぶりに見る正樹君はスーツ姿で、何だかちょっとだけ大人になっていてドキッとする。
「ご無沙汰しています」
席に近づくと香織さんの姿もあった。正樹君の前のリーダーだった優一さんも。総勢8人。5年前からバイトしている私の知らない顔も集まって、その光景は正しく大人の飲み会だった。来年、社会人になったらこうゆう席に出る事もきっとあるのだろう。でも今はまだ子供すぎる自分が場違いな感じがして少々萎縮した気持ちになった。
「げんさん、ホッピーひとつ追加で!」
席に付くなり正樹君が注文をする。注文しながら「白?黒?」と私に言う。
「私、ホッピー飲んだことないからビールでいいです」
「あれ?ホッピー始めてか?げんさん、じゃ白で!」
(えぇー)
私を無視してホッピーを頼んだ正樹君をほんの少し恨めしげに睨む。
「亜希ちゃん、初めてのホッピーなら尚更、今日飲まないと!」