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『バイトリーダー』黒藪千代

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 挫けそうになる自分をぐっと堪えて道路を渡り次の端からまた数える。
(1、2、3本、4、5本)よしっ、今度こそ!
 金のシャツ、脂ベッタリの髪にサングラス。やっぱり見当たらない。
 端はあとひとつ。もう落ち込んでいる時間などない!次はきっといる!
 箸と醤油の入った袋を握り締め最後の端っこ目掛け酔っ払いをかきわけながら走った。
 終点の端っこに見える一際大きな桜の木。そこまではまだ少し距離があるけれどこの位置から立ち止まって数えられる。大きく弾む呼吸。肌寒さはいつの間にかなくなって背中にうっすらと汗を掻いていた。
 息を整え、大きな木からゆびを指して数える。
(いっち、にー、3本、しー、5本!)
 ゆっくりと歩いて5本目を目指す。見えてくる沢山の人、人、人。
 と、一際目を引くあの出で立ちがあった。
 金の柄シャツ、黄色いズボン!間違いない!
 あんなに恨めしかった派手な出で立ち。普段なら目を逸らして歩き去るその派手な男にその姿が嬉しいとさえ思う。よしっ!意を決してゆっくりと近づいた。
 十数人の団体がブルーシートを広げて宴会をしている中に、見ず知らずの人間が声を掛ける事はこんなにも勇気のいる事なのかと始めて気づく。
 至近距離まで近づく勇気がなく、少し離れた位置で立ち止まる。
「あ、あの」
 恥ずかしさと気まずさとで宴会の喧騒にかき消された私の小さな声は見事にその場にいる全員に無視された。
 何事もなかったかのように、この箸と醤油の入った袋を置いて帰ろうかとも思った。いや、しかしこのまま帰ったのではうちの店が手違いをして謝罪もしなかったと言われてしまう。そんな事になったらここまでの道のりが無かった事になってしまう。いや、道のりなんてこの際どうでもいい!
 私はバイトリーダーとしての責任を果たさなければならない!だって、みんなより30円高い時給を貰っているのだから!
 心の中でこの場を何とかする為に自分を叱咤しながらも、それ以上ブルーシートに近づく事が出来ず、立ち尽くしたまま動けなくなってしまった。
「あら、お嬢さん何か用?誰かの知り合い?」
 女の人の声がして顔を上げると、金の柄シャツ男が酔っ払いながら私を指差して(寿司屋のねぇちゃん?)と言う。
「あの、た、大変申し訳ありませんでした。箸とお醤油です」
「ありゃ、ホントに持って来たの?!」
 袋を手渡そうとブルーシートに近づくと、見覚えのあるプラスチックの丸い桶が見えた。(あっ)
 寿司はほとんど残っていなかった。

 翌朝目覚めると、店の白衣を着たまま布団に包まっていた。

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